犬の白内障と点眼治療の選び方|診断カルテ

更新

気づいたら目が白っぽく…

「最近、愛犬の目がなんだか白く濁って見える…」
そんな違和感を覚えて当院を訪れた飼い主さん。まだシニア期に入ったばかりなのに、片目の水晶体が白く霞んでいる状態でした。診察の結果は白内障。

白内障とは

白内障は、目の中のレンズの役割をする水晶体が白く濁り、視界がかすんでしまう病気です。
犬では遺伝性や糖尿病性の白内障が多く、若い時期から発症することもあります。
原因は以下のようにさまざまです。
※ヒトでは加齢性が多く、老年期の病気として知られています。

・遺伝性
・先天性(生まれつき)
・糖尿病性
・外傷などによる後天性
・加齢性

千寿製薬、動物眼科セミナー、ハンドアウトより
上記の図は白内障になった場合に、失目するまでの日数を表しています。

治療法の選択肢

1. 手術

水晶体を取り除く手術が最も効果的で、視力回復が期待できます。
ただし犬の場合は、症状が進行してから手術になることが多く、全身麻酔が必要です。

・高齢犬や持病がある犬は麻酔リスクが高い
・手術費用が高額
・専門施設が限られる

こうした理由で、すべての犬が手術を受けられるわけではありません。

2. 点眼療法

手術が難しい場合や、進行を少しでも遅らせたい場合に選択されます。
点眼で白内障が治るわけではありませんが、「失明までの日数を延ばす」効果が期待できます。

点眼薬の種類と特徴

ステロイド点眼

炎症を抑える力が強く、進行抑制効果があるとされますが、長期使用では副作用(眼圧上昇や感染症リスク)があり、定期的な眼科検査が必要です。

非ステロイド点眼(ジクロフェナック®)

白内障進行抑制の報告があり、広く使われています。
ただし角膜潰瘍の副作用が比較的多く、目をしょぼつかせる様子が見られたら中止し受診が必要です。

ステロイド点眼(左2つ)と非ステロイド点眼(ジクロード®)

プラノプロフェン(ティアローズ®)

効果はやや穏やかですが、副作用が少ないとされ、最近注目されています。
どの薬も「副作用ゼロ」ではないため、定期検査が前提です。

プラノプロフェン(ティアローズⓇ)

当院の方針

当院では、飼い主さんの理解と協力を得たうえで、白内障の進行を遅らせるための毎日の点眼治療を提案しています。

・定期的な眼科検査
・目がしょぼつくなど異常があればすぐ受診

この2点を守っていただくことで、安全に治療を継続できます。

飼い主さんへのアドバイス

・愛犬の目を日常的に観察する
・白く濁ってきた、物にぶつかる、目を気にするなどの変化があれば早めに受診
・手術・点眼どちらもメリットとリスクを理解して選択する

獣医師からのメッセージ

白内障は進行性の病気ですが、早期発見と適切な対応で、失明までの時間を延ばすことができます。
「もう歳だから…」と諦めず、日々のケアと獣医師のサポートで愛犬の視界を守っていきましょう。

当院では、犬の白内障をはじめとした眼科疾患の診断・治療を行っています。
「目が白くなってきた」「物にぶつかるようになった」など気になる症状があれば、早めにご相談ください。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。