
愛猫の目やにが気になったことはありませんか?朝起きたら目の周りに茶色い固まりがついていたり、いつもより目やにが多かったりすると、「何か病気かもしれない」と心配になりますよね。
猫の目やには、実は健康状態を知るための重要なサインです。正常な範囲内の目やにであれば問題ありませんが、色や量、粘り気などに異常が見られる場合は、何らかの病気が隠れている可能性があります。
この記事では、猫の目やにの正常と異常の違いから、考えられる原因、自宅でできるケア方法、受診が必要なサイン、予防法まで、飼い主さんが知っておくべき情報を詳しく解説していきます。大切な愛猫の目の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
1. 猫の目やにとは?正常と異常の違い

目やにの正体
猫の目やには、涙、油分、そして目の表面から剥がれ落ちた老廃物(細胞や異物)が混ざり合ってできた自然な分泌物です。人間でも朝起きたときに目やにがつくことがあるように、猫にとっても目やには生理的な現象のひとつなのです。
涙には目の表面を潤し、異物を洗い流す役割があります。この涙が目頭から鼻へと流れる過程で、ゴミやほこり、古い細胞などを一緒に運び出します。それが目頭や目尻に溜まって固まったものが「目やに」として現れるのです。
正常な目やにの特徴
健康な猫にも少量の目やには出ます。以下のような特徴があれば、基本的には心配する必要はありません。
色: 薄い茶色から透明、あるいは黒っぽい茶色。乾燥すると茶色く見えることがあります。
量: 毎朝起きたときに目頭に少量ついている程度。一日一回軽く拭き取れば問題ないレベルです。
質感: 乾燥してカサカサしている、またはやや湿っているが粘り気はほとんどない。
頻度: 毎日少量出る程度で、日中に何度も拭く必要がない。
その他の症状: 目の充血や腫れ、痛がる様子、食欲低下などの異常が見られない。
このような正常な目やには、猫の自浄作用によって自然に排出されているものなので、過度に心配する必要はありません。ただし、定期的に観察して、いつもと違う変化がないかチェックすることが大切です。
異常な目やにのサイン
一方で、以下のような目やには何らかの異常がある可能性が高いため、注意が必要です。
色が濃い、または異常な色: 黄色、黄緑色、緑色、赤茶色(血が混じっている)など。特に黄色や緑色の目やには、細菌感染を疑うサインです。
粘り気が強い: ドロッとした膿のような質感、糸を引くような粘り気がある。乾燥しても固くこびりついて取れにくい。
悪臭がする: 目やにから嫌な臭いがする場合は、感染症の可能性があります。
量が多い: 一日に何度も拭く必要があるほど大量に出る。拭いてもすぐにまた溜まる。
片目だけに出る: 両目ではなく片方の目だけに集中して目やにが出る場合は、その目に何らかのトラブルがある可能性が高いです。
目の周囲の異常を伴う: 瞬膜(第三眼瞼)が出ている、目をしょぼしょぼさせる、まぶたが腫れている、目が充血している、涙が止まらない、目を開けられないなどの症状がある。
全身症状を伴う: くしゃみ、鼻水、発熱、食欲低下、元気がないなどの症状が同時に現れる。
これらの異常なサインが見られたら、単なる目やにではなく、何らかの病気が原因である可能性が高いため、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
2. 猫の目やにが多くなる主な原因

猫の目やにが増える原因はさまざまです。ここでは、代表的な7つの原因について詳しく見ていきましょう。
2-1. 乾燥やほこり・刺激物
環境要因による刺激
空気の乾燥やハウスダスト、花粉、煙草の煙、芳香剤やスプレーなどの化学物質が目を刺激すると、涙の分泌量が増えて目やにも増加します。
特に冬場の暖房使用時やエアコンを長時間使用する夏場は、室内が乾燥しやすくなります。湿度が低下すると、目の表面も乾燥しやすくなり、異物が目に付着しやすくなるのです。
また、部屋の掃除が行き届いていないとハウスダストが舞い上がり、猫の目を刺激します。猫砂を使用している場合、トイレの砂が飛び散って目に入ることもあります。
対策
室内の湿度を50〜60%に保つように加湿器を使用する、こまめに掃除をして清潔な環境を維持する、猫の近くで喫煙や強い香りのスプレーを使わないなどの配慮が必要です。
2-2. アレルギー
アレルギー性結膜炎
猫も人間と同じように、さまざまなアレルゲンに対してアレルギー反応を起こすことがあります。花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、特定の食物、化学物質などが原因となり、目のかゆみや充血、涙、目やにの増加を引き起こします。
アレルギーによる目やには、通常は透明から白っぽい色で、水っぽいことが多いです。ただし、目をこすることで二次的に細菌感染を起こすと、黄色い目やにに変わることもあります。
その他の症状
目の症状だけでなく、くしゃみ、鼻水、皮膚のかゆみ、顔をこする、耳をかくなどの行動が見られることもあります。季節性のアレルギーの場合は、特定の時期にだけ症状が現れるのが特徴です。
対策と治療
アレルゲンを特定して除去することが基本ですが、完全に避けることが難しい場合も多いです。動物病院では、抗ヒスタミン薬やステロイドなどの投薬治療、アレルゲンを特定するための検査などが行われます。※潰瘍時は不可
2-3. 細菌・ウイルス感染
猫風邪(上部気道感染症)
猫の目やにが増える原因として最も多いのが、ウイルスや細菌による感染症です。特に「猫風邪」と呼ばれる上部気道感染症は、目やにの主要な原因のひとつです。
猫ヘルペスウイルス(猫ウイルス性鼻気管炎)やカリシウイルス、クラミジアなどが代表的な病原体で、これらに感染すると結膜炎を引き起こし、大量の目やにが出ます。
症状の特徴
黄色から黄緑色、緑色のドロッとした膿のような目やにが出る、両目または片目が目やにで塞がってしまうほど大量に出る、目が充血して腫れる、涙が止まらない、目を開けづらそうにするなどの症状が見られます。
さらに、発熱、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、食欲低下、元気がない、よだれが増えるなどの全身症状を伴うことが多いです。
感染経路と注意点
多頭飼いの家庭や猫が密集する環境では、感染が広がりやすいため注意が必要です。ワクチン接種で予防できる病気も多いので、定期的なワクチン接種が重要です。
子猫や高齢猫、免疫力が低下している猫は重症化しやすいため、早期の治療が必要です。放置すると慢性化したり、肺炎などの合併症を起こしたりする危険性があります。
2-4. 結膜炎(感染性・アレルギー性)
結膜炎とは
結膜とは、まぶたの内側と眼球の白目の部分を覆っている薄い膜のことです。この結膜に炎症が起こる状態を結膜炎といいます。
結膜炎は、感染性(ウイルス、細菌、クラミジア)、アレルギー性、刺激性(異物、外傷)などさまざまな原因で起こります。猫の目のトラブルの中でも最も多く見られる疾患のひとつです。
症状
まぶたの内側が赤く腫れる、白目が充血する、目やにが増える(透明〜黄色)、涙が多く出る、まぶたが腫れぼったくなる、痛みやかゆみで目をこする・前足で顔を掻く、目をしょぼしょぼさせる、瞬膜が出るなどの症状が現れます。
片目だけに症状が出ることもあれば、両目に出ることもあります。軽度であれば目やにが少し増える程度ですが、重症化すると目が開けられなくなることもあります。
治療の重要性
結膜炎は早期に適切な治療を行えば比較的短期間で改善しますが、放置すると慢性化したり、角膜炎に進行したりする恐れがあります。特に感染性の結膜炎は、他の猫にうつる可能性もあるため、早めの受診が大切です。
2-5. 角膜炎・角膜潰瘍
角膜のトラブル
角膜とは、目の表面を覆っている透明な膜のことです。この角膜に炎症が起こる状態を角膜炎、角膜に傷がついて深くえぐれてしまった状態を角膜潰瘍といいます。
原因
猫が目を擦る、ケンカで引っかかれる、異物(砂や植物の破片など)が目に入る、逆さまつげ、シャンプーや薬品が目に入る、ウイルスや細菌感染の進行、結膜炎の悪化などが原因となります。
特に多頭飼いの環境では、猫同士のケンカで目を傷つけてしまうことがよくあります。
症状
透明から黄色の目やにが出る、涙が大量に出る、まぶしそうに目を細める、目を開けられない・開けたがらない、瞬膜が出る、目の表面が白く濁る、目を痛がって触らせない、食欲低下などの症状が見られます。
角膜潰瘍になると、角膜の表面に白い点や白濁が見られることがあります。重症化すると角膜に穴が開いてしまい、最悪の場合は失明する危険性もあります。
緊急性の高い疾患
角膜炎や角膜潰瘍は、放置すると急速に悪化する可能性があるため、緊急性の高い疾患です。目に異常を感じたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
2-6. 涙やけ・鼻涙管閉塞
涙やけとは
涙やけとは、涙が常に目から溢れ出して、目の周囲の毛が茶色く変色してしまう状態のことです。涙に含まれる成分が酸化することで、毛が茶色や赤茶色に染まります。
鼻涙管閉塞
通常、涙は目頭から鼻涙管という細い管を通って鼻の奥へと排出されます。しかし、この鼻涙管が生まれつき細かったり、炎症やゴミなどで詰まったりすると、涙が正常に排出されず目から溢れ出てしまいます。
涙が溢れると、涙と一緒に目やにも増えてしまいます。常に目の周りが湿った状態になり、細菌が繁殖しやすくなることで、二次的に感染を起こすこともあります。
好発猫種
特に短頭種(ペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘア、スコティッシュフォールドなど)は、顔の骨格の関係で鼻涙管が圧迫されやすく、生まれつき涙やけになりやすい傾向があります。
対策と治療
毎日こまめに涙や目やにを拭き取る、目の周りの毛を短くカットする、食事の見直し(添加物の少ないフードに変更する)などの日常ケアが重要です。
鼻涙管が完全に詰まっている場合は、動物病院で鼻涙管洗浄という処置を行うことがあります。ただし、猫の場合は鼻涙管が非常に細く、洗浄が難しいケースも多いです。
2-7. 加齢による変化
老猫の目やに増加
猫も年齢を重ねると、さまざまな身体機能が低下します。目の周辺でも、涙の分泌量や質の変化、免疫力の低下、自浄作用の低下などが起こり、結果として目やにが増えやすくなります。
高齢猫特有の問題
老猫では、目やにがこびりついて固まりやすく、自分でグルーミングして取り除くことが難しくなります。また、加齢に伴って白内障、緑内障、ぶどう膜炎などの目の病気にかかるリスクも高まります。
さらに、腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症などの全身疾患が原因で、免疫力が低下し、目の感染症にかかりやすくなることもあります。
高齢猫のケア
老猫の場合は、飼い主さんがより丁寧にケアしてあげる必要があります。毎日目やにをチェックして優しく拭き取る、年に1〜2回の健康診断で目の状態も診てもらう、栄養バランスの良い高齢猫用フードを与えるなどの配慮が大切です。
3. 放置するとどうなる?考えられるリスク

猫の異常な目やにを放置すると、さまざまなリスクが生じます。「少し様子を見よう」と思っているうちに、症状が悪化してしまうことも少なくありません。
感染の悪化
細菌やウイルスによる感染症が原因の場合、治療せずに放置すると感染が深部に広がり、結膜炎から角膜炎、さらには角膜潰瘍へと進行する危険性があります。
角膜に深い傷がつくと、傷が治っても白く濁った跡(角膜瘢痕)が残り、視力に影響を与えることがあります。最悪の場合、眼球に穴が開く(角膜穿孔)、眼球内部に感染が広がる(眼内炎)などの重篤な状態になり、失明や眼球摘出が必要になるケースもあります。
目の周囲の皮膚炎
目やにが長期間付着していると、目の周囲の皮膚が炎症を起こし、赤くただれたり、毛が抜けたりします。涙やけが進行すると、常に湿った状態になり、細菌や真菌(カビ)が繁殖しやすくなります。
皮膚のかゆみや痛みから、猫が顔を掻くことで傷がさらに悪化し、悪循環に陥ることもあります。
慢性化して再発を繰り返す
適切な治療を受けずに放置すると、症状が慢性化して治りにくくなります。特にウイルス性の感染症(猫ヘルペスウイルスなど)は、一度感染するとウイルスが体内に潜伏し、ストレスや免疫力低下をきっかけに再発を繰り返すことがあります。
慢性結膜炎になると、完治が難しく、生涯にわたって目やにのケアや投薬が必要になる場合もあります。
原因疾患の悪化
目やにの背後に、猫風邪や全身性の病気が隠れている場合、目の症状だけでなく全身状態も悪化する可能性があります。
例えば、猫風邪を放置すると肺炎を併発したり、食欲不振から体力が低下したりします。子猫や高齢猫、免疫力が低下している猫では、命に関わることもあるため、早期の対応が重要です。
猫の生活の質(QOL)の低下
目やにが多い状態が続くと、猫自身も不快感や痛みを感じています。視界がぼやけて見えにくくなったり、目の痛みでストレスを感じたりすることで、活動量が減ったり、食欲が落ちたりします。
愛猫の快適な生活を守るためにも、早めのケアと適切な治療が大切なのです。
4. 自宅でできる目やにケアの方法

軽度の目やにであれば、自宅でのケアで十分対応できます。ここでは、飼い主さんが日常的に行える目やにケアの方法をご紹介します。
4-1. 清潔に拭き取る
基本の拭き取り方法
目やにを取り除く際は、清潔なコットンやガーゼを使用します。ティッシュペーパーは繊維が粗く、目を傷つける恐れがあるため避けましょう。
コットンやガーゼにぬるま湯(人肌程度)、または動物用アイローションを含ませます。人間用の目薬や化粧水は、猫の目には刺激が強すぎるため使用しないでください。
拭き取るときは、目尻から目頭へ向かって優しく拭き取ります。強くこすると目を傷つけたり、猫が嫌がって次回からケアさせてくれなくなったりするので、力加減には注意が必要です。
固まった目やにの対処法
目やにが乾燥して固まってしまっている場合は、無理に引っ張らず、まずぬるま湯で湿らせてふやかします。数秒間優しく押し当てて、目やにが柔らかくなってから取り除きましょう。
毛に絡まっている場合は、必要に応じて目の周りの毛を短くカットすることも検討してください。ただし、ハサミで猫の目を傷つけないよう、十分注意して行います。
衛生管理
使用したコットンやガーゼは、一度使ったら必ず捨てます。同じものを使い回すと、細菌やウイルスを広げてしまう可能性があります。
特に片目だけに目やにが出ている場合は、健康な方の目に感染を広げないよう、別のコットンを使い分けましょう。
ケアのタイミング
毎日同じ時間にケアすると、猫も習慣として受け入れやすくなります。朝起きたときに目やにが一番多く溜まっているので、朝のケアを習慣にするのがおすすめです。
猫がリラックスしているときに行うと、嫌がらずにケアさせてくれやすくなります。ケアの後におやつをあげるなど、良いイメージを持たせる工夫も効果的です。
日常的なケアを続けても涙やけが気になる場合は、専用の涙やけケア用品を取り入れてみるのもおすすめです。
当院では、低刺激で目の周りの被毛にも使える「アイリッドラッシュ」を推奨しています。
皮膚に優しい成分で、毎日の拭き取りケアにも安心してお使いいただけます。
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4-2. 清潔な環境を保つ
適度な湿度を保つ
室内の湿度を50〜60%に保つことで、目の乾燥を防ぎ、目やにの増加を抑えることができます。特に冬場の暖房使用時や夏場のエアコン使用時は、加湿器を活用しましょう。
湿度計を設置して、こまめにチェックすることをおすすめします。ただし、湿度が高すぎるとカビやダニが発生しやすくなるので、適度な湿度を維持することが大切です。
ハウスダスト・花粉対策
こまめに掃除機をかける、空気清浄機を使用する、猫のベッドやクッションを定期的に洗濯する、窓を開けて換気する(花粉の時期は避ける)などの対策が効果的です。
猫砂が飛び散りやすい場合は、飛び散りにくいタイプに変更したり、カバー付きのトイレを使用したりするのも良いでしょう。
刺激物を避ける
猫の近くでの喫煙は絶対に避けましょう。煙草の煙は猫の目や呼吸器を刺激します。
また、芳香剤、アロマオイル、殺虫スプレー、消臭スプレーなども、猫にとっては刺激物となることがあります。特に猫がいる部屋では、できるだけ使用を控えるか、猫を別の部屋に移動させてから使用しましょう。
4-3. 栄養と免疫ケア
バランスの取れた食事
質の良いキャットフードを与えることは、猫の免疫力を維持し、目の健康を保つために重要です。総合栄養食の表示があるフードを選び、年齢や健康状態に合ったものを与えましょう。
特にビタミンAは目の健康に欠かせない栄養素で、視力の維持や目の粘膜を保護する働きがあります。ビタミンEは抗酸化作用があり、老化や病気から目を守ります。
水分摂取を増やす
十分な水分摂取は、体内の老廃物を排出し、涙の質を改善するのに役立ちます。新鮮な水をいつでも飲めるようにしておきましょう。
猫が水をあまり飲まない場合は、ウェットフードを取り入れる、流れる水を好む猫には自動給水器を使用する、水飲み場を複数設置するなどの工夫が効果的です。
ストレス管理
ストレスは免疫力を低下させ、病気にかかりやすくします。猫が安心して過ごせる環境を整えることが大切です。
静かに休める場所を確保する、適度な運動や遊びの時間を作る、多頭飼いの場合は各猫が自分のスペースを持てるようにする、急激な環境の変化を避けるなどの配慮を心がけましょう。
5. 受診が必要なサイン

自宅でのケアで改善しない場合や、以下のような症状が見られる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
緊急性の高い症状
黄色・緑色・血の混じった目やに
黄色や緑色のドロッとした目やには、細菌感染の可能性が高いサインです。放置すると感染が深部に広がる危険性があるため、早急に受診が必要です。
血が混じった赤茶色の目やにも、角膜に傷がついている可能性があり、注意が必要です。
目を開けられない・痛がる
目を開けられない、目を細めている、触ろうとすると嫌がる、隠れてじっとしているなどの行動が見られる場合は、強い痛みを感じている可能性があります。
角膜炎や角膜潰瘍など、緊急性の高い疾患が隠れているかもしれないため、できるだけ早く受診しましょう。
片目だけに症状が出る
両目ではなく片方の目だけに集中して目やにや充血などの症状が出る場合は、その目に何らかのトラブル(外傷、異物混入、腫瘍など)がある可能性が高いです。
目が腫れている・変形している
まぶたや目の周りが大きく腫れている、眼球が飛び出しているように見える、眼球のサイズが左右で違うなどの異常が見られる場合は、緑内障や眼球内の腫瘍など、重大な病気の可能性があります。
全身症状を伴う場合
感染症の疑い
目やにに加えて、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、発熱、食欲不振、元気がない、体重減少などの全身症状がある場合は、猫風邪などの感染症が疑われます。
特に子猫や高齢猫では、急速に衰弱することもあるため、早急な治療が必要です。
食欲不振や行動の変化
目やにが増えたタイミングで食欲が落ちた、水を飲まなくなった、隠れて出てこない、いつもより元気がないなどの変化が見られる場合は、目だけでなく全身に何らかの問題が起きている可能性があります。
改善しない・悪化する場合
1〜2日経っても改善しない
自宅でケアをしても症状が変わらない、あるいは悪化している場合は、自宅ケアだけでは対処できない状態です。早めに専門家の診察を受けましょう。
再発を繰り返す
一時的に良くなってもすぐに再発する、慢性的に目やにが続いているという場合は、根本的な原因(鼻涙管閉塞、アレルギー、慢性感染症など)が隠れている可能性があります。
受診時に伝えるべき情報
動物病院を受診する際は、以下の情報を獣医師に伝えるとスムーズです。
事前にメモを作っておくと、診察時に伝え忘れを防げます。
6. 動物病院での検査と治療

動物病院では、目やにの原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。そして原因に応じた適切な治療が実施されます。
診察内容
視診
まず、獣医師が目の状態を詳しく観察します。目やにの色や量、まぶたの腫れ、充血の程度、角膜の透明度、瞬膜の状態などをチェックします。
専用のライトを使って、目の細部まで観察することもあります。
フルオレセイン染色検査(蛍光染色検査)
角膜に傷がないかを確認するための検査です。フルオレセインという蛍光色素を目に点眼し、特殊なライトで照らします。角膜に傷があると、その部分が緑色に光って見えます。
この検査により、角膜炎や角膜潰瘍の有無、傷の深さや範囲を評価できます。
シルマー涙液試験(涙量検査)
涙の分泌量が正常かどうかを調べる検査です。専用の試験紙を目に入れて、一定時間でどれだけ涙が分泌されるかを測定します。
涙が少なすぎる場合はドライアイ(乾性角結膜炎)、多すぎる場合は鼻涙管閉塞などが疑われます。
細菌培養検査・感受性試験
細菌感染が疑われる場合、目やにを採取して培養検査を行います。どのような細菌が原因なのか、どの抗生物質が効果的なのかを調べることができます。
ただし、結果が出るまでに数日かかるため、まずは一般的に効果のある抗生物質で治療を開始し、必要に応じて薬を変更することもあります。
PCR検査
猫ヘルペスウイルスやカリシウイルスなど、特定のウイルス感染を調べるための検査です。鼻や目から検体を採取して検査に出します。
眼圧検査
緑内障が疑われる場合に行われる検査で、眼球内部の圧力を測定します。
その他の全身検査
全身症状がある場合は、血液検査やウイルス検査(猫白血病ウイルス、猫免疫不全ウイルスなど)を行うこともあります。
治療方法
点眼薬(目薬)
最も一般的な治療法です。原因に応じて、以下のような点眼薬が処方されます。
点眼は通常、1日数回行う必要があります。獣医師の指示通りに、決められた回数と期間、きちんと点眼を続けることが重要です。途中で症状が良くなっても、自己判断で中止せず、指示された期間は継続しましょう。
点眼のコツ
猫の点眼は慣れないと難しいですが、以下のポイントを押さえると上手くできます。
内服薬
全身性の感染症やアレルギーの場合は、飲み薬が処方されることがあります。
眼軟膏
点眼薬より長時間目に留まるため、重症例や夜間に使用されることがあります。
涙道洗浄(鼻涙管洗浄)
鼻涙管が詰まっている場合、細い管を使って生理食塩水で洗浄する処置が行われます。全身麻酔または鎮静が必要な場合もあります。
ただし、猫の鼻涙管は非常に細く、解剖学的に洗浄が難しいことも多いです。また、洗浄後も再び詰まる可能性があるため、定期的なケアが必要になることもあります。
原因疾患の治療
猫風邪などの基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行います。脱水がある場合は点滴、食欲がない場合は強制給餌や食欲増進剤の投与などが行われることもあります。
外科的治療
まれに、腫瘍や重度の外傷、治らない角膜潰瘍などの場合は、手術が必要になることもあります。
7. 猫種別の注意点

猫種によって、目やにの出やすさや注意すべきポイントが異なります。
短頭種(ブラキセファリック)
該当する猫種
ペルシャ、エキゾチックショートヘア、ヒマラヤン、スコティッシュフォールド(折れ耳タイプは特に)など、顔が平たい猫種。
特徴と注意点
これらの猫種は、顔の骨格が独特で、鼻涙管が圧迫されやすい構造になっています。そのため、生まれつき涙やけになりやすく、常に目やにが多めの傾向があります。
また、目が大きく飛び出しているため、異物が入りやすく、傷つきやすいというリスクもあります。
ケアのポイント
毎日必ず目やにと涙を拭き取る習慣をつけましょう。拭き取らずに放置すると、目の周りの毛が茶色く変色したり、皮膚炎を起こしたりします。
目の周りの毛を短くカットすることで、毛が目に入るのを防ぎ、拭き取りもしやすくなります。ただし、短頭種は呼吸器の問題も抱えていることが多いため、ストレスのかかる処置は慎重に行いましょう。
涙やけ専用のクリーナーや、添加物の少ないフードへの変更が効果的なこともあります。
長毛種
該当する猫種
メインクーン、ノルウェージャンフォレストキャット、ラグドール、ペルシャ、ヒマラヤンなど。
特徴と注意点
長い被毛が目に入りやすく、それが刺激となって涙や目やにが増えることがあります。また、目の周りの毛に目やにが絡まって固まりやすく、取り除くのが大変です。
特に目の周りの毛が密集している猫は、毛が目を刺激したり、逆さまつげのような状態になったりすることがあります。
ケアのポイント
目の周りの毛を定期的にカットまたはトリミングしましょう。特に目頭側の毛は短めにしておくと、目やにが絡みにくくなります。
ブラッシングの際に、顔周りも優しくブラッシングして、抜け毛が目に入らないようにします。
長毛種は全身のグルーミングも大変なので、定期的なトリミングサロンの利用も検討しましょう。
老猫(シニア猫)
加齢による変化
7歳以上のシニア猫、特に10歳を超えた高齢猫は、さまざまな理由で目やにが増えやすくなります。
涙の分泌量や質の変化、免疫力の低下、自分でグルーミングする能力の低下、加齢性の目の病気(白内障、緑内障、ぶどう膜炎など)のリスク増加などが主な原因です。
ケアのポイント
老猫は自分で目やにを取り除くのが難しくなるため、飼い主さんが毎日ケアしてあげる必要があります。優しく、無理なく行いましょう。
年に1〜2回の健康診断で、目の状態も必ずチェックしてもらいます。白内障や緑内障などは早期発見が重要です。
栄養バランスの良い高齢猫用フードを与え、免疫力を維持しましょう。水分摂取も意識的に促します。
老猫は環境の変化にストレスを感じやすいので、静かで安心できる環境を整えてあげることも大切です。
8. 日常的な予防法

目やにのトラブルを防ぐためには、日常的な予防とケアが何より重要です。
定期的な顔まわりのケア
毎日の観察とケア
愛猫とのスキンシップの時間を使って、毎日目の状態をチェックする習慣をつけましょう。目やにの量、色、目の充血や腫れがないかなどを観察します。
少量の目やにであれば、毎朝清潔なコットンで優しく拭き取ります。この毎日のケアが、目のトラブルの早期発見につながります。
グルーミングの習慣
猫は本来、自分でグルーミングをして清潔を保つ動物ですが、顔周りは自分では手入れしにくい部位です。飼い主さんが定期的にブラッシングしてあげることで、抜け毛やほこりが目に入るのを防げます。
特に換毛期(春と秋)は、こまめなブラッシングで抜け毛を取り除きましょう。
目の周囲の毛を短く整える
適切なトリミング
目に毛がかかっている場合は、目の周りの毛を短くカットすることで、刺激を減らし、目やにが毛に絡むのを防げます。
ただし、猫が動いたときにハサミで目を傷つける危険性があるため、自信がない場合は無理をせず、トリミングサロンや動物病院に依頼しましょう。
自宅で行う場合は、先が丸いペット用のハサミを使い、猫がリラックスしているときに、少しずつ慎重にカットします。
健康診断(年1〜2回)
定期検診の重要性
健康そうに見えても、年に1〜2回は動物病院で健康診断を受けることをおすすめします。若い猫は年1回、7歳以上のシニア猫は年2回が目安です。
健康診断では、目の状態もしっかりチェックしてもらいましょう。目やにの状態、角膜や結膜の異常、涙の量などを専門家に診てもらうことで、早期に問題を発見できます。
ワクチン接種
猫風邪など、目やにの原因となる感染症の多くは、ワクチンで予防できます。子猫のときの基礎免疫に加えて、成猫になってからも定期的な追加接種が重要です。
完全室内飼いの猫でも、飼い主さんが外から病原体を持ち込む可能性があるため、ワクチン接種は必要です。
ストレスや免疫低下を防ぐ環境づくり
ストレスフリーな環境
猫はストレスに弱い動物で、ストレスが免疫力を低下させ、さまざまな病気にかかりやすくなります。
静かで落ち着ける場所を用意する、高い場所に登れるキャットタワーを設置する、隠れられる場所(箱や猫用ベッドなど)を複数用意する、規則正しい生活リズムを保つなどの配慮が大切です。
多頭飼いの注意点
複数の猫を飼っている場合、猫同士の相性やストレスに注意が必要です。猫の数だけトイレやフードボウルを用意する、各猫が自分のテリトリーを持てるようにする、新しい猫を迎えるときは慎重に慣らすなどの工夫をしましょう。
また、感染症が広がりやすいため、一匹に目やにや風邪の症状が出たら、すぐに隔離して他の猫への感染を防ぎます。
適度な運動と遊び
適度な運動は、猫の免疫力を高め、ストレスを解消します。毎日一定時間、猫じゃらしやボールなどで遊んであげましょう。
運動不足は肥満にもつながり、肥満は様々な病気のリスクを高めます。
質の良い睡眠
猫は一日の大半を寝て過ごす動物です。質の良い睡眠がとれる環境を整えることも、健康維持には欠かせません。
静かで温度が適切(夏は涼しく、冬は暖かく)、快適な寝床を用意してあげましょう。
9. まとめ:目やには「健康のバロメーター」

猫の目やには、単なる汚れではなく、愛猫の健康状態を知らせてくれる大切なサインです。
正常な目やにと異常な目やにの違いを知る
健康な猫にも少量の目やには出ますが、色が薄い茶色から透明で、量も少なければ心配ありません。一方、黄色や緑色のドロッとした目やに、大量の目やに、血が混じった目やになどは、何らかの病気のサインである可能性が高いです。
日頃から愛猫の目やにの「いつもの状態」を把握しておくことで、異常にいち早く気づくことができます。
原因はさまざま
目やにが増える原因は、乾燥やほこりといった環境要因から、アレルギー、細菌・ウイルス感染、結膜炎、角膜炎、涙やけ、加齢など、実にさまざまです。
原因によって適切な対処法や治療法が異なるため、異常な目やにが続く場合は、自己判断せずに動物病院を受診することが大切です。
早期発見・早期治療が鍵
目のトラブルは、放置すると急速に悪化したり、慢性化したり、最悪の場合は失明につながったりする可能性があります。「少し様子を見よう」と思っているうちに、取り返しのつかないことになるケースも少なくありません。
異常なサインが見られたら、できるだけ早く受診しましょう。早期に適切な治療を受ければ、多くの場合、短期間で回復します。
日常のケアと観察が予防につながる
毎日の目やにチェックと拭き取り、清潔な環境の維持、バランスの取れた食事、ストレス管理など、日常的なケアが目のトラブルの予防につながります。
また、定期的な健康診断とワクチン接種も忘れずに行いましょう。予防できる病気は、しっかり予防することが重要です。
愛猫との絆を深める機会に
目やにのケアは、愛猫とのスキンシップの時間でもあります。毎日優しく目やにを拭いてあげることで、猫との信頼関係も深まります。
最初は嫌がる猫も、優しく根気強くケアを続けることで、次第に受け入れてくれるようになります。ケアの後にはたくさん褒めて、おやつをあげるなど、良いイメージを持たせる工夫をしましょう。
飼い主としての責任
猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが日々の観察を通じて、小さな変化に気づいてあげることが大切です。
目やにという小さなサインを見逃さず、適切にケアし、必要なときには専門家の助けを借りる。それが、愛猫の健康と幸せを守る飼い主さんの大切な役割なのです。
愛猫の目がいつもキラキラと輝いているように、日々のケアと観察を大切にしていきましょう。少しでも気になることがあれば、遠慮せずにかかりつけの動物病院に相談してください。獣医師は、あなたと愛猫の健康を守るパートナーです。
大切な家族である愛猫が、いつまでも健康で快適に過ごせるよう、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。










