
ハムスターは体が小さく代謝が早いため、病気の進行スピードが非常に速い動物です。朝は元気だったのに夕方には急激に容態が悪化してしまうケースも珍しくありません。そのため、飼い主様が「元気がない」「毛づやが悪い」といったわずかな変化に気づけるかどうかが、ハムスターの命を守る上で極めて重要になります。
当院でも、ハムスターの体調不良に関するご相談を日々多く寄せられています。その中で感じるのは、飼い主様が異変に気づいたときにはすでに病気がかなり進行しているケースが多いということです。ハムスターには病気を隠す習性があるため、明らかな症状が出る頃には重症化していることが少なくありません。
本記事では、ハムスターがかかりやすい代表的な病気と、見逃してはいけない初期症状について、動物病院の現場での経験をもとに詳しく解説します。日々の観察ポイントを知っておくことで、大切なハムスターの異変をいち早く察知し、適切な対応ができるようになります。

ハムスターが病気にかかりやすい理由

ハムスターは他のペットと比べて病気にかかりやすく、また重症化しやすい傾向があります。その背景には、小動物特有の体の仕組みと生態的な特徴が関係しています。
小動物特有の体の特徴
ハムスターのような小型げっ歯類は、体が小さい分だけ新陳代謝が非常に活発です。心拍数は1分間に300回を超え、人間の約5倍のスピードで体内の化学反応が進んでいます。このため、体温調節や水分バランスが崩れやすく、わずかな環境変化でも体調を崩しやすいのです。
特に体重が30〜150グラム程度しかないハムスターにとって、わずか数グラムの体重減少でも全体重の数パーセントに相当します。人間に置き換えると、体重60キロの人が一晩で3〜5キロ痩せるようなものです。そのため、食欲不振や下痢による脱水は、あっという間に命に関わる事態になります。
また、小さな体には予備エネルギーがほとんど蓄えられていません。半日から1日食事を取らないだけで低血糖状態になり、臓器機能が急激に低下することもあります。このような生理学的特徴が、ハムスターの病気進行を速める大きな要因となっています。
温度・湿度・ストレスの影響
ハムスターは温度変化に非常に敏感な動物です。適温は20〜26℃とされていますが、これを外れると体温調節機能に負担がかかり、免疫力が低下します。特に夏場の熱中症や冬場の低体温症は、数時間で致命的な状態になることがあります。
湿度も重要な要素です。乾燥しすぎると呼吸器系の粘膜が傷つき、細菌やウイルスの侵入を許しやすくなります。逆に湿度が高すぎると皮膚病や真菌感染のリスクが高まります。理想的な湿度は40〜60%ですが、季節によって大きく変動するため、飼い主様の管理が欠かせません。
さらに見落とされがちなのがストレスの影響です。ハムスターは縄張り意識が強く、単独生活を好む動物です。複数飼育や過度な接触、騒音、急激な環境変化などがストレスとなり、免疫機能を著しく低下させます。当院に来院するハムスターの中にも、引っ越しや模様替えの直後に体調を崩したというケースが多く見られます。ストレスホルモンの分泌が続くと、腸内細菌のバランスが崩れ、下痢や食欲不振を引き起こすことが分かっています。
自己防衛的に「隠す」習性
野生のハムスターは被捕食者、つまり他の動物に狙われる立場にあります。そのため、弱っている姿を見せると敵に襲われやすくなるため、具合が悪くても平気なふりをする本能が備わっています。これは飼育下でも変わりません。
この習性により、飼い主様が「いつもと少し違うかも」と感じたときには、実はすでにかなり病状が進行していることが多いのです。巣箱の奥でじっとしている時間が増えた、回し車で遊ばなくなった、といった行動の変化が重要なサインになります。
また、ハムスターは夜行性のため、飼い主様が寝ている間に最も活動的になります。日中は寝ていることが多いため、本当に体調が悪いのか単に眠いだけなのか判断しづらいという問題もあります。だからこそ、日々の細やかな観察と「いつもと違う」というわずかな違和感を大切にすることが、早期発見につながります。
早期発見につながる「異変のサイン」10項目

ハムスターの病気を早期に発見するには、日常的な健康チェックが欠かせません。以下の10項目は、当院でも特に重要視している観察ポイントです。
① 食欲がない・水を飲まない
食欲や飲水量の変化は、最も分かりやすい異変のサインです。ハムスターは頬袋に食べ物を詰め込んで巣に運ぶ習性があるため、一見食べているように見えても実際には食べていないことがあります。ペレットの減り具合や頬袋の使用頻度、巣に蓄えられた食べ物の量などを総合的に観察することが大切です。
水を飲む量が極端に増えたり減ったりする場合も要注意です。飲水量の増加は糖尿病や腎臓病の可能性があり、逆に飲まなくなった場合は口や頬袋のトラブル、あるいは全身状態の悪化が疑われます。このような症状が見られたら、下痢、頬袋の炎症、歯のトラブル、腫瘍などさまざまな病気の可能性があります。
② 毛並み・ツヤの変化
健康なハムスターの毛はツヤがあり、ふんわりとしています。毛並みが悪くなり、ボサボサしたりベタついたりしている場合は、体調不良のサインです。グルーミング(毛づくろい)ができないほど体力が落ちていることを示しています。
特に腰やお尻周りの毛が汚れている場合は下痢の可能性が高く、局所的な脱毛がある場合は皮膚病や寄生虫感染が疑われます。高齢のハムスターでは毛がパサついてくることもありますが、急激な変化が見られた場合は栄養不良や内臓疾患も考えられます。
③ 呼吸が荒い・鼻を鳴らす
安静時にもかかわらず呼吸が速かったり、お腹が大きく上下に動いていたりする場合は、呼吸器系の疾患や心臓の問題、あるいは熱中症などが考えられます。鼻を「ズーズー」「ヒューヒュー」と鳴らしている場合は、鼻水や気道の炎症が起きている可能性があります。
くしゃみを連発する、鼻水が出ている、目やにがひどいといった症状を伴う場合は、風邪や肺炎のサインです。呼吸器疾患は進行が早く、放置すると命に関わるため、早めの受診が必要です。
④ 体重の減少
週に1回程度、同じ時間帯に体重を測定する習慣をつけることをお勧めします。体重の5〜10%の減少は病気のサインです。たとえば体重80グラムのハムスターが1週間で75グラムになったら要注意です。
体重減少は食欲不振、下痢、腫瘍、糖尿病、歯のトラブルなど、あらゆる病気で起こりうる症状です。逆に急激な体重増加も、腫瘍や腹水の可能性があるため見逃せません。定期的な体重測定は、目に見えない内臓の異常を早期に察知する重要な手段となります。
⑤ うんちやおしっこの異常(下痢・血尿など)
健康なハムスターのうんちは、細長い形をしていて適度な硬さがあります。軟便や水様便、粘液が混ざっている、血が付いているといった場合は、消化器系の疾患が疑われます。特に若いハムスターの下痢は命に関わることが多く、緊急性の高い症状です。
おしっこの色や量の変化も重要です。赤っぽい尿や血尿は尿路感染症や結石の可能性があります。極端に量が多い場合は糖尿病や腎臓病、逆に少ない場合は脱水や腎機能低下が考えられます。床材の汚れ方や巣箱周辺の状態から、排泄の異常をチェックしましょう。
⑥ 歩き方・動き方がおかしい
足を引きずる、びっこを引く、片側に傾いて歩くといった症状は、骨折や脱臼、神経系の問題を示唆します。回し車やケージからの落下事故による外傷の可能性もあります。
また、ふらついて歩く、まっすぐ進めない、クルクル回るといった症状は、内耳の感染症や脳の問題が原因かもしれません。高齢ハムスターでは関節炎や筋力低下による動きの鈍化も見られますが、急激な変化があった場合は病気を疑うべきです。
⑦ 体をかく・なめる・かさぶた
頻繁に体をかいたり、同じ場所を執拗になめたりしている場合は、皮膚病の可能性があります。ダニやシラミなどの外部寄生虫、真菌感染、アレルギー、ストレスによる自傷行為などが原因として考えられます。
皮膚に赤みやかさぶた、脱毛、フケが見られる場合は、早めに治療を始めることで悪化を防げます。特に顔や耳、足先に症状が出やすく、放置すると全身に広がることがあります。皮膚病は視覚的に分かりやすいサインなので、日々の観察で発見しやすい病気の一つです。
⑧ 口・歯・頬袋の異常
よだれが出ている、口が閉じにくそう、食べ物をこぼすといった症状は、歯の不正咬合や頬袋のトラブルを示しています。ハムスターの歯は一生伸び続けるため、適切に削れないと口の中を傷つけてしまいます。
頬袋が片側だけ膨らんだまま戻らない、顔が腫れているといった場合は、頬袋に食べ物が詰まっているか、炎症や感染症を起こしている可能性があります。頬袋の問題は放置すると壊死することもあるため、速やかな対応が必要です。
⑨ 目やに・涙・目の濁り
目やにが多い、涙が出ている、目が開けにくそうにしているといった症状は、結膜炎や角膜の傷、呼吸器感染症の波及などが考えられます。目が白く濁っている場合は、白内障や緑内障の可能性もあります。
目の異常は見た目で分かりやすいため、飼い主様が気づきやすい症状です。片目だけの場合は外傷やケージ内の異物、両目の場合は全身性の感染症やアレルギーが疑われます。目の病気は早期治療で改善することが多いため、異常に気づいたら早めに受診してください。
⑩ 元気がなくうずくまる
巣箱から出てこない、回し車で遊ばない、動きが鈍い、呼びかけても反応が薄いといった行動の変化は、全身状態の悪化を示す重要なサインです。特に普段は活発な時間帯にじっとうずくまっている場合は、かなり具合が悪い可能性があります。
背中を丸めて呼吸している、目を閉じたまま動かない、触っても逃げないといった状態は緊急性が高く、すぐに動物病院を受診すべきです。これらの症状は、下痢、呼吸器疾患、腫瘍、低体温症など、あらゆる病気の末期症状として現れることがあります。
ハムスターがかかりやすい病気一覧

ここからは、ハムスターによく見られる代表的な病気について、症状・原因・対処法を詳しく解説します。
1. 下痢・軟便
下痢はハムスターの病気の中で最も緊急性が高いものの一つです。特に「ウェットテイル(増殖性腸炎)」と呼ばれる病気は、若いハムスター、特にゴールデンハムスターに多く見られ、致死率が非常に高いことで知られています。
ウェットテイルの主な症状は、水様性の激しい下痢でお尻から尾にかけてが濡れてしまうことです。発症すると急速に脱水が進み、わずか1〜2日で命を落とすこともあります。原因は複数の細菌(特にローソニア菌)の感染と考えられており、ストレスや環境変化が引き金になることが多いとされています。
その他の下痢の原因としては、食事の急な変更、古くなった野菜や果物の摂取、細菌やウイルスの感染、寄生虫、ストレスなどがあります。軟便程度であれば様子を見ることもありますが、水様便や血便、粘液便が見られる場合は即座に受診が必要です。
治療では、抗生剤の投与、脱水改善のための皮下輸液、消化管の動きを整える薬などが使われます。自宅では、温かく静かな環境で安静にさせ、新鮮な水を常に飲めるようにしておくことが大切です。下痢の間は野菜や果物を控え、ペレットや乾燥フードのみにすることをお勧めします。
2. 頬袋の炎症・詰まり
頬袋はハムスターの特徴的な器官ですが、トラブルも起こりやすい部位です。尖った食べ物や床材の破片が頬袋を傷つけたり、詰め込みすぎた食べ物が取れなくなったりすることがあります。
頬袋のトラブルの症状としては、片側の顔だけが膨らんだまま戻らない、顔全体が腫れる、よだれを垂らす、食欲不振、口臭などが挙げられます。触ると痛がったり、いつもより攻撃的になったりすることもあります。
原因として多いのは、粘着性のある食べ物(チョコレートやキャラメルなど)やサイズの大きすぎる食べ物の詰まり、床材の木片やプラスチック片の混入、頬袋の裏返り(反転)、腫瘍などです。また、頬袋に傷ができるとそこから細菌感染を起こし、膿瘍を形成することもあります。
治療では、詰まった食べ物を取り除く処置、抗生剤の投与、抗炎症薬の使用などが行われます。重症例では麻酔下での外科的処置が必要になることもあります。予防として、頬袋に詰まりやすい粘着性の食べ物や大きすぎる食べ物は避け、床材も安全なものを選ぶことが重要です。
3. 呼吸器疾患(風邪・肺炎)
ハムスターは温度変化や湿度の変動に敏感で、風邪をひきやすい動物です。特に冬場のエアコンの風や夏場の冷房の効きすぎ、季節の変わり目の温度差などが原因となります。
初期症状は、くしゃみ、鼻水、目やに、軽い呼吸音などです。この段階で適切に対処できれば回復も早いのですが、放置すると肺炎に進行し、呼吸困難、食欲不振、体重減少、ぐったりするなど重篤な状態になります。呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえたり、口を開けて呼吸したりする場合は重症のサインです。
原因となる病原体は細菌が多く、特にパスツレラ菌やマイコプラズマなどが関与することがあります。また、アンモニア臭の強い不潔なケージ環境は気道を刺激し、呼吸器疾患のリスクを高めます。
治療には抗生剤が使用され、症状に応じて去痰薬や気管支拡張薬、栄養補助なども併用されます。自宅では、温度を22〜24℃程度に保ち、湿度も適切に管理することが大切です。ケージを清潔に保ち、アンモニア臭がこもらないようにこまめに掃除しましょう。呼吸器疾患は早期発見・早期治療が回復の鍵となります。
4. 皮膚病(ダニ・真菌・脱毛)
ハムスターの皮膚病は比較的よく見られる疾患で、原因はさまざまです。最も多いのはダニやシラミなどの外部寄生虫による皮膚炎です。ニキビダニやヒゼンダニなどが寄生すると、激しいかゆみが生じ、脱毛やかさぶたができます。
真菌(カビ)感染による皮膚糸状菌症も一般的です。円形の脱毛とその周辺の赤みやフケが特徴で、人間にも感染する可能性があるため注意が必要です。湿度が高い環境や免疫力が低下しているときに発症しやすくなります。
アレルギー性皮膚炎は、床材や食べ物に対するアレルギー反応で起こります。特に針葉樹の床材(杉やヒノキなど)はアレルギーを引き起こしやすいとされています。また、過度なストレスによって自分で毛をむしったり皮膚を傷つけたりする自傷行為も見られます。
症状としては、脱毛、フケ、皮膚の赤み、かさぶた、かゆみによる掻き行動の増加などがあります。顔や耳、腰から尻尾にかけての部位に出やすい傾向があります。
治療は原因によって異なります。寄生虫の場合は駆虫薬、真菌感染の場合は抗真菌薬、アレルギーの場合は原因物質の除去と抗炎症薬などが用いられます。皮膚病は見た目で分かりやすいため早期発見しやすい反面、放置すると全身に広がり治療が長引くこともあります。
5. 腫瘍(特に老齢ハムスター)
ハムスターは腫瘍ができやすい動物として知られており、特に1歳半以上の高齢個体でよく見られます。最も多いのは乳腺腫瘍で、雌雄問わず発生しますが特にメスに多い傾向があります。
腫瘍の症状は、体表にできるしこりとして現れることが多く、触ると柔らかいものから硬いものまでさまざまです。乳腺腫瘍は胸部や腹部、脇の下などにできやすく、急速に大きくなることがあります。皮下腫瘍は体のどこにでもでき、最初は小さくても次第に巨大化することがあります。
内臓腫瘍の場合は外から見えないため、食欲不振、体重減少、腹部膨満、呼吸困難などの症状で気づくことが多いです。リンパ腫や肝臓腫瘍、副腎腫瘍などがあり、これらは発見が遅れがちです。
腫瘍には良性と悪性があります。良性腫瘍は周囲組織への浸潤や転移がなく、摘出すれば完治することが多いです。悪性腫瘍(がん)は周囲に広がったり他の臓器に転移したりするため、予後が厳しいことがあります。ただし、ハムスターの腫瘍は外科的に完全切除できれば良好な経過をたどることも多いです。
治療の選択肢は主に外科手術です。ハムスターは麻酔リスクが高い動物ですが、当院でも経験豊富な獣医師が慎重に麻酔管理を行いながら腫瘍摘出手術を実施しています。高齢や体力低下が著しい場合、または腫瘍が大きすぎて手術が困難な場合は、QOL(生活の質)を維持する緩和ケアを選択することもあります。
6. 歯のトラブル(不正咬合)
ハムスターの歯は一生伸び続けるため、適切に削れないと不正咬合という状態になります。上下の歯が正常に噛み合わず、伸びすぎた歯が口の中を傷つけたり、頬袋を貫通したりすることさえあります。
不正咬合の主な原因は、硬いものをかじる機会の不足です。かじり木やペレットなどで歯を削る機会が少ないと、歯が異常に伸びてしまいます。また、ケージの柵をかじる習慣がある個体は、歯の摩耗が不均等になり不正咬合のリスクが高まります。遺伝的な要因や外傷、加齢による歯の変形なども原因となります。
症状としては、食欲不振、よだれ、頬袋の腫れ、体重減少、口の周りが濡れている、食べこぼしが多いなどがあります。進行すると全く食べられなくなり、急速に衰弱してしまいます。
治療は歯科処置が中心で、伸びすぎた歯を適切な長さにカットします。軽度であれば無麻酔でも可能ですが、奥歯の処置や重度の場合は麻酔下での処置が必要です。一度不正咬合になると再発しやすいため、定期的な歯のチェックと処置が必要になることが多いです。
予防としては、ペレットなどの硬めのフードを主食にし、かじり木を常に用意しておくことが大切です。柔らかいものばかり与えていると歯が削れないため、食事内容のバランスに注意が必要です。
7. 外傷・骨折
ハムスターは活発に動き回る動物ですが、その分事故も起こりやすいです。高さのあるケージからの落下、回し車への挟まり、複数飼育でのケンカ、人の手からの落下などが外傷や骨折の主な原因です。
骨折の症状は、足を引きずる、患部を地面につけない、触ると激しく痛がる、腫れや変形が見られるなどです。開放骨折(骨が皮膚を破って外に出ている状態)の場合は出血も伴います。外傷では擦り傷や咬み傷、切り傷などが見られ、化膿すると腫れや発熱を起こします。
ハムスターのような小動物の骨折治療は非常に難しく、外科的固定(ギプスやピンの挿入)が困難なことも多いです。そのため、ケージ内での安静を基本とし、痛み止めの投与や感染予防の抗生剤投与で自然治癒を待つことが一般的です。
応急処置としては、まず動物を安全な場所に移し、刺激を与えないようにします。出血がある場合は清潔なガーゼで軽く押さえます。骨折部位を無理に動かさず、できるだけ早く動物病院を受診してください。
予防のためには、ケージ内の高低差を最小限にし、回し車は足が挟まりにくい安全な設計のものを選びます。複数飼育は避け、取り扱いは慎重に行い、落下事故を防ぐことが重要です。
8.目の病気(白濁・結膜炎など)
ハムスターの目のトラブルは比較的よく見られます。結膜炎は最も一般的で、細菌感染、ウイルス感染、アレルギー、異物混入などが原因となります。症状は目やに、涙、目の充血、瞼の腫れなどです。
白内障は特に高齢ハムスターに多く、水晶体が白く濁って視力が低下します。糖尿病に伴って発症することもあります。進行すると目が真っ白になり、視力をほぼ失ってしまいますが、ハムスターは嗅覚が優れているため日常生活にはそれほど支障をきたさないこともあります。
角膜潰瘍は、床材の粉塵や異物、外傷などで角膜に傷がつく病気です。強い痛みを伴い、涙が大量に出たり、目を開けられなくなったりします。
放置すると感染を起こし、最悪の場合は眼球摘出が必要になることもあります。
緑内障は眼圧が上昇して視神経が圧迫される病気で、眼球が突出したり、痛みで目をショボショボさせたりします。急性の場合は緊急処置が必要です。
治療は原因によって異なります。結膜炎や角膜潰瘍には抗生剤の点眼薬が使用されます。ハムスターへの点眼は難しいですが、1日数回確実に投与することが大切です。白内障は根本的な治療法がないため、進行を遅らせる対症療法や環境調整が中心となります。緑内障では眼圧を下げる薬が使われますが、効果が限定的な場合もあります。
予防としては、床材の粉塵が少ないものを選び、ケージ内を清潔に保つことが重要です。また、糖尿病のリスクが高い品種(ジャンガリアンハムスターなど)では、食事管理を徹底して糖尿病性白内障を予防することも大切です。
9. 糖尿病
糖尿病はドワーフ系(特にカンベル系・ハイブリッド)で発症リスクが高いに非常に多く見られる病気です。遺伝的な素因が強く、不適切な食事(糖分の多い果物やおやつの過剰摂取)が発症を促進します。
糖尿病の典型的な症状は「多飲多尿」です。通常より水を飲む量が明らかに増え、おしっこの量も回数も増加します。床材がいつもより早く濡れる、給水ボトルの減りが異常に早いといった変化で気づくことが多いです。
その他の症状としては、食欲はあるのに体重が減る、毛並みが悪くなる、元気がなくなる、白内障の発症などがあります。進行すると低血糖発作や昏睡状態になることもあります。
診断は尿検査と血液検査で行います。尿に糖が出ているか、血糖値が正常範囲を超えているかを確認します。ハムスターの糖尿病は人間と異なり、インスリン注射などの治療はほとんど行われません。基本的には食事管理による血糖コントロールが治療の中心です。
具体的には、糖分の多い果物やおやつを完全にカットし、ペレットを主食とします。野菜も糖分の少ないものを選び、与える量も制限します。低脂肪・高繊維の食事が推奨されます。
糖尿病は完治が難しい慢性疾患ですが、適切な食事管理により症状をコントロールし、QOLを維持することは可能です。当院でも糖尿病のハムスターの飼い主様に対して、詳しい食事指導を行っています。
予防としては、最初から糖分の多いおやつを与えない習慣をつけることが最も重要です。「ハムスターが喜ぶから」と果物やひまわりの種を頻繁に与えることは、愛情表現のつもりが実は健康を害していることになります。
10. 熱中症・低体温
温度管理の失敗によって起こる熱中症と低体温症は、いずれも命に関わる緊急事態です。
熱中症は夏場に多く発生します。室温が30℃を超える環境や、直射日光が当たる場所、風通しの悪い場所にケージを置いていると危険です。車内に短時間置いただけでも発症することがあります。症状は、ぐったりして動かない、呼吸が荒く速い、よだれを垂らす、体が熱い、痙攣などです。
熱中症を発見したら、まず涼しい場所に移動させ、体温を下げる必要があります。ただし、急激に冷やすのは危険です。濡れたタオルで体を包む、扇風機の風を当てる、冷たすぎない水で濡らしたガーゼを当てるなどの方法で、徐々に体温を下げながら、すぐに動物病院へ搬送してください。
低体温症は冬場に多く、室温が15℃以下になると危険です。暖房を切った夜間や早朝、停電時などに発症します。症状は、動きが鈍い、反応が薄い、体が冷たい、呼吸が浅く遅い、最終的には意識がなくなるなどです。
低体温症の応急処置は、温かい環境に移し、ゆっくりと体温を上げることです。使い捨てカイロをタオルで包んでケージの下に置く、ペットボトルにぬるま湯を入れて体に当てるなどの方法があります。ただし熱すぎるものを直接当てると火傷するため注意が必要です。体温が戻ってきても、必ず動物病院を受診してください。
予防としては、年間を通じて室温を20〜26℃、湿度を40〜60%に保つことが基本です。エアコンや暖房器具を適切に使用し、温度計・湿度計を設置して常にチェックしましょう。外出時や就寝時も温度管理を怠らないことが大切です。
すぐに受診が必要な危険サイン

ハムスターの病気の中には、数時間の遅れが命取りになるものもあります。以下のような症状が見られたら、たとえ夜間や休日であっても、緊急対応可能な動物病院を探して受診してください。
出血(外傷・口鼻出血・血尿・血便)
まず出血がある場合は緊急性が高いです。外傷による出血、口や鼻からの出血、血尿、血便などは、放置すると出血性ショックを起こす危険があります。清潔なガーゼで圧迫止血しながら、速やかに受診してください。
呼吸困難(開口呼吸・努力呼吸・チアノーゼ)
呼吸困難も緊急症状です。口を開けて呼吸している、呼吸のたびに全身が大きく上下する、チアノーゼ(舌や歯茎が青紫色になる)が見られる場合は、酸素不足の状態です。肺炎や心不全、熱中症などが考えられ、酸素吸入などの緊急処置が必要です。
無反応・意識障害(ぐったり・反応低下)
全く動かない、触っても反応しない、意識がないといった状態も危険です。低血糖、低体温、重度の脱水、ショック状態などが疑われます。体温を保ちながら、できるだけ早く獣医師の診察を受けてください。
痙攣・発作(押さえつけない/安全確保)
痙攣や発作を起こしている場合も緊急性があります。全身が硬直する、四肢をばたつかせる、意識を失うといった症状は、脳の異常や中毒、低血糖、熱中症などのサインです。発作中は無理に押さえつけず、周囲の危険物を取り除いて見守り、発作が治まったら受診してください。
下痢+嘔吐+ぐったり(急速脱水・ウェットテイル)
下痢と嘔吐が同時に起こり、ぐったりしている場合も危険です。急速に脱水が進み、数時間で命に関わる状態になることがあります。特に若いハムスターのウェットテイルは致死率が高いため、一刻も早い治療が必要です。
半日〜1日以内に受診すべきサイン
半日から1日以内に受診すべき症状としては、明らかな食欲不振(半日以上全く食べない)、軟便や下痢、呼吸音の異常、目やにや鼻水、動きの異常、体重の急激な減少などがあります。これらは急激に悪化する可能性があるため、様子を見すぎずに早めの受診を心がけてください。
自宅でやってはいけない対応(誤嚥・市販薬の危険)
自宅でしてはいけない対応もあります。人間用の薬を与える、ネットの情報だけで自己判断する、症状が重いのに「明日まで様子を見よう」と先延ばしにするといった行動は危険です。また、無理に食べ物や水を口に入れようとすると、誤嚥(気管に入る)のリスクがあります。専門家の指示を仰ぐことが最善の対応です。
動物病院での診察・検査・治療の流れ

来院前の準備(症状の時系列/排泄物の持参)
ハムスターを動物病院に連れて行く際の流れを知っておくと、スムーズに診察を受けられます。
まず来院前の準備として、いつから症状が出ているか、どんな症状か、食事や水の摂取状況、うんちやおしっこの状態、最近の環境変化などをメモしておくと良いでしょう。可能であれば、その日のうんちを持参すると検便検査に役立ちます。
連れて行き方と温度管理(キャリー・保温/保冷)
来院時は、ストレスを軽減するため、巣箱ごと、あるいは普段使っている寝床の素材と一緒に、小さなキャリーケースに入れて運びます。温度変化に弱いため、夏は保冷剤、冬はカイロなどで温度管理をしながら移動してください。
診察の進み方(問診→身体検査)
診察室では、まず問診が行われます。獣医師が症状の詳細、発症時期、飼育環境、食事内容、既往歴などを確認します。その後、視診と触診で全身状態をチェックします。体重測定、体温測定、心拍数や呼吸数の確認、毛並みや皮膚の状態、口腔内や目の観察などが行われます。
主な検査(検便・血液・尿・画像)
必要に応じて各種検査が実施されます。検便検査では、寄生虫や細菌、消化状態を調べます。血液検査は、貧血や炎症の有無、肝臓や腎臓の機能、血糖値などを評価しますが、ハムスターは採血できる血液量が限られているため、症状に応じて必要最小限の項目を選択します。
尿検査では、糖尿病や腎臓病、尿路感染症などを診断できます。レントゲン検査は、骨折や腫瘍、内臓の異常、腸閉塞などを調べるのに有効です。超音波検査で内臓の状態を詳しく見ることもあります。
主な治療(内科治療・輸液・酸素・保温)
治療法は病気の種類と重症度によって異なります。内科治療では、抗生剤、抗炎症薬、痛み止め、消化管薬、栄養補助剤などが処方されます。ハムスターは経口投与が難しいため、注射や皮下投与が選ばれることもあります。
脱水が進んでいる場合は、皮下輸液や静脈輸液で水分補給を行います。呼吸困難がある場合は酸素吸入、低体温の場合は保温処置なども実施されます。
外科治療の判断(麻酔リスクと適応の見極め)
外科治療が必要な場合は、麻酔のリスクと手術の必要性を慎重に評価します。腫瘍摘出、歯科処置、膿瘍の切開排膿、頬袋の処置などがあります。ハムスターの麻酔は高リスクですが、適切な麻酔管理のもとで多くの手術が成功しています。
病院選びのポイント(エキゾ診療経験・救急体制)
動物病院を選ぶ際のポイントとして、小動物(エキゾチックアニマル)の診療経験が豊富であることが重要です。犬猫専門の病院ではハムスターの診察経験が少ないこともあるため、事前に電話で確認することをお勧めします。また、緊急時に対応してもらえるか、入院設備があるかなども確認しておくと安心です。
病気を防ぐための5つの予防習慣

① 温度・湿度の安定管理(20〜26℃/40〜60%)
病気の早期発見と同じくらい大切なのが予防です。日常的なケアで多くの病気は防ぐことができます。
第一に、温度と湿度の安定管理が最も重要です。適温は20〜26℃、湿度は40〜60%を保つようにします。エアコンや暖房を適切に使用し、ケージは直射日光が当たらず、エアコンの風が直接当たらない場所に設置します。温度計と湿度計を必ず設置し、毎日チェックする習慣をつけましょう。特に季節の変わり目や夏冬は注意が必要です.
② 清潔なケージ環境(掃除頻度と床材選び)
第二に、清潔なケージ環境の維持です。床材は週に1回程度全交換し、トイレや給水器、食器は毎日洗浄します。ケージ全体は月に1回程度、しっかりと洗って消毒します。ただし、ハムスターは縄張り意識が強いため、急激にすべてを新しくするとストレスになることがあります。巣材の一部は残しておくなど、自分の匂いが少し残るようにすることがポイントです。
床材選びも重要で、針葉樹(杉やヒノキ)の床材はアレルギーのリスクがあるため避け、広葉樹や紙製の床材を選ぶことをお勧めします。粉塵が多いものは呼吸器や目のトラブルの原因になるため、粉塵が少ないタイプを選びましょう。
③ 栄養バランスの取れた食事(ペレット中心・糖分脂肪を控える)
第三に、栄養バランスの取れた食事です。主食はハムスター用ペレットとし、新鮮な野菜を少量副食として与えます。果物や種子類(ひまわりの種など)は糖分や脂肪分が多いため、おやつとして週に1〜2回程度にとどめます。特にジャンガリアンハムスターは糖尿病になりやすいため、糖分の多い食べ物は厳禁です。
水は毎日新鮮なものに交換し、給水器が正常に機能しているか確認します。古くなった野菜や果物は速やかに取り除き、食べ物が腐敗しないよう注意します。人間の食べ物、特にチョコレートやネギ類、香辛料、塩分の多いものは絶対に与えないでください。
④ 定期的な健康チェック(体重・排泄・行動の記録)
第四に、定期的な健康チェックです。毎日の観察で、食欲、水の飲み方、うんちの状態、活動量などを確認します。週に1回は体重を測定し、記録をつけておくと変化に気づきやすくなります。月に1回程度は、体全体を触って腫瘍やしこりがないか、毛並みは良いか、目や鼻に異常はないか、歯は伸びすぎていないかなどを詳しくチェックします。
若いうちから動物病院で健康診断を受ける習慣をつけることも大切です。年に1回程度の定期検診で、飼い主様が気づかない異常を早期発見できることがあります。特に1歳半を超えた高齢ハムスターは、半年に1回程度の検診が推奨されます。
⑤ ストレスを与えない接し方(単独飼育・静かな環境)
第五に、ストレスを与えない接し方です。ハムスターは単独生活を好む動物なので、基本的に1匹で飼育します。複数飼育はケンカや共食いのリスクがあるため避けましょう。過度なスキンシップも逆効果で、特に昼間に無理やり起こして遊ぶことはストレスになります。
ケージの配置換えや大掃除は頻繁に行わず、環境を安定させることが大切です。騒音の多い場所や人の出入りが激しい場所は避け、静かで落ち着ける環境を提供します。新しいハムスターを迎えたばかりのときは、1週間程度はそっとしておき、環境に慣れるまで最小限の世話だけにとどめます。
安全な運動と遊具(回し車のサイズ・構造)
適度な運動も健康維持に重要です。回し車はケージ内に必ず設置し、夜間に自由に運動できるようにします。ただし、回し車は足が挟まらない安全な設計のものを選び、サイズもハムスターの体に合ったものを使用してください。
まとめ

ハムスターは体が小さく病気の進行が早い動物だからこそ、小さなサインを見逃さないことが最大の予防となります。「いつもと少し違う」という飼い主様の直感は、多くの場合正しいものです。食欲、水の飲み方、うんちの状態、毛並み、活動量、呼吸の様子など、日々の観察を通じて「いつもの状態」を把握しておくことで、異変に素早く気づくことができます。
異変を感じたら、様子を見すぎずにすぐに動物病院に相談してください。ハムスターの場合、「明日まで様子を見よう」という判断が手遅れにつながることがあります。当院でも、早期に来院された方は回復率が高く、飼い主様の素早い決断がハムスターの命を救った例を数多く見てきました。
また、病気の予防には日々の適切な飼育管理が欠かせません。温度・湿度の管理、清潔な環境、バランスの取れた食事、定期的な健康チェック、ストレスの少ない生活などを心がけることで、多くの病気は防ぐことができます。
ハムスターの寿命は2〜3年と短いですが、その短い時間を健康で幸せに過ごしてもらうことが飼い主様の願いだと思います。当院では、ハムスターの健康管理や病気の治療について、いつでもご相談をお受けしています。気になることがあれば、遠慮なくお問い合わせください。大切な家族の一員であるハムスターが、1日でも長く元気に過ごせるよう、全力でサポートさせていただきます。
よくある質問

Q1:ハムスターの下痢は自然に治りますか?
下痢は自然治癒を期待すべき症状ではありません。特にウェットテイルと呼ばれる増殖性腸炎は致死率が高く、治療開始が数時間遅れるだけで命に関わります。軽い軟便であれば食事内容の見直しで改善することもありますが、水様便や血便、粘液便が見られる場合は即座に受診が必要です。下痢による脱水は急速に進むため、様子を見ている間に重篤化する危険があります。
Q2:頬袋が腫れたまま戻らないときの対処法は?
頬袋の腫れが半日以上続く場合は、食べ物が詰まっているか、炎症や感染を起こしている可能性があります。無理に自分で取り出そうとすると頬袋を傷つける危険があるため、必ず動物病院を受診してください。頬袋の問題は放置すると壊死や敗血症につながることもあります。受診までの間は、無理に食べ物を与えず、静かに見守ってください。
Q3:呼吸が荒いとき、すぐ受診すべき?
呼吸の異常は緊急性の高い症状です。特に口を開けて呼吸している、呼吸のたびに全身が大きく動く、ゼーゼーという音が聞こえるといった場合は、酸素不足の状態であり、即座の受診が必要です。呼吸器疾患や熱中症、心臓病などが考えられ、数時間の遅れが命取りになることがあります。夜間や休日であっても、緊急対応可能な動物病院を探して受診してください。
Q4:高齢ハムスターの腫瘍は手術できますか?
年齢だけで手術の可否を判断することはありません。全身状態、腫瘍の大きさや位置、麻酔リスクなどを総合的に評価して決定します。体力が十分にあり、腫瘍が手術可能な場所にあれば、高齢でも手術を行うことがあります。ただし、体力低下が著しい場合や腫瘍が大きすぎる場合、複数の臓器に転移している場合などは、手術よりもQOLを維持する緩和ケアを選択することもあります。まずは動物病院で相談し、最善の選択肢を一緒に考えましょう。










