飼い主さん目線でわかる「鳥の薬、どう飲ませる?」診断カルテ

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はじめての投薬、うまくいかない…(飼い主さんの声)

「先生から“お口に1滴ずつ入れてください”と言われたけれど、どうしても怖くて…。セキセイインコのミドリは体重30g、私が少し強く抑えただけでドキッとしてしまいます。指先に薬を垂らしても飲んでくれない。スポイトを口に近づけると首を振って逃げて、夜には私の手を怖がるように…。このままじゃ、信頼関係まで壊してしまうのではないかと不安でした。」

小さな体の鳥にお薬を飲ませるのは、想像以上にむずかしいもの。大切なのは「正しい方法の選択」と「鳥と飼い主さん、どちらにも無理がないやり方」です。ここでは実際の相談内容をもとに、検査・診断・治療・予防の流れをコラムとしてまとめました。

検査:まずは「体調」と「投薬適性」を評価

ミドリちゃん(セキセイインコ、体重29.5g)は、来院時に以下を確認しました。

身体検査
脱水の有無、呼吸状態、口腔内、嗉嚢(しのう/食べ物を一時的にためる袋)

体重推移
前医処方後に40g→29g台へ減少していないかを確認

吐き気や嘔吐の既往
嘔吐がある場合は「直接投薬」を避ける判断材料になります

飼い主さんの保定(ほてい/鳥を安全に固定すること)スキル
安全に抑えられるか、鳥が極度に警戒していないか

行動・関係性
投薬後に手や薬を過度に恐れていないか

あわせて、誤嚥(ごえん/気管に液体が入ってしまうこと)リスクを評価します。鳥の気管は下顎の下に位置するため、スポイトやボトルの先端を口の奥に差し込むのは危険です。

診断:「投薬方法ミスマッチ」によるストレス・体重減少リスク

疾患そのものの管理に加え、「自宅投薬の方法」が合っていないことが問題を悪化させていました。具体的には、

・強い保定と口腔内への挿入で、鳥が手と薬を過度に恐れるようになっていた

・うまく飲めず、必要量が入らない日が続き、体重が減少傾向

・嘔吐気味の日があり、直接投与が不向きなタイミングがあった

このため、方法の切り替え(直接投薬→飲水投薬)と再トレーニングが必要と判断しました。

治療:鳥と人の“負担が少ない方法”を選ぶ

1) 直接投薬(口から1滴ずつ)を再評価

正しいやり方:首をやさしく支え、上嘴と下嘴の隙間に1滴だけ置く(奥に流し込まない)

向いているケース:保定が安定、嘔吐がない、鳥が飼い主さんの手を怖がらない場合

注意点:保定が不十分だと誤嚥・外傷・強いストレスの原因に。継続困難なら無理をしない

直接投与法、首を抑えて上嘴と下嘴の間に1滴置くようにいれます。
しかし自宅でこの方法を行うと鳥がオーナーを嫌うことになる場合もあります。(筆者飼育鳥で見本の写真撮影)

専門用語ミニ解説
保定=鳥を安全に動かないよう支えること。強すぎても弱すぎても危険。
誤嚥=薬や水が気管に入ること。咳や呼吸障害の原因になります。

2) 飲水投薬(お水に薬を混ぜる)

直接投与が難しいときの第一選択肢です。
当院の目安:

オカメインコ程度の体格…100mLの飲水に薬を混ぜる

セキセイインコ・文鳥…50mLの飲水に薬を混ぜる

体重の**約10%**を1日で飲めれば、必要量が入る設計

利点

投薬ストレスが少ない/嘔吐があっても実施可能

手や薬器具への嫌悪を助長しにくい

欠点と対処

味や色で飲水量が落ちることがある → 温度や光、容器を変えて試行

飲水量が日によってブレる → 体重と飲水記録で“入っている目安”を管理

水に溶けにくい薬は沈殿 → 規定回数で軽く攪拌

多頭飼育で分離がストレスに → 副作用が低い薬なら同居投与を検討(要獣医判断)

最重要の注意

飲水用に処方した原液(濃い設計)を、絶対に直接口へ入れないでください。
例:セキセイインコの処方では「1回1滴×1日2回の直接投薬量」と「50mLの飲水に1包を溶解して体重の10%飲水」の設計が等価になるよう調整します。設計が違う薬を“直で”入れると過量投与の危険があります。

3) 補助テクニック

指先やスプーンに1滴落として“自発的に舐める”練習

好物(安全な範囲)に“うすく”塗布して摂取を促す

ご家庭独自のコツ(熟練の飼い主さんに見られる)も安全であれば採用可能

4) 飼い主さんと鳥の関係を守る

投薬=怖い体験にしないため、短時間・中断可能・翌日リカバリー可能な方法を優先

投薬後は落ち着ける環境(静音・適温・安全な止まり木)でクールダウン

「飲めなかった日」を責めず、次に入る方法へ柔軟に切り替える

予防:つまずきを減らすコツと長期管理

設備と準備:明るさ・手元の安定・清潔な器具、動画での自己チェック

練習計画:体調が良い日にごく少量で成功体験→徐々に本量へ

体重・飲水ログ:毎日の「体重」「水の減り」「フンの状態」を一行で記録

嘔吐が出たら:その日は直接投薬を避ける選択肢を

多頭飼育:分離ストレスと投与精度のバランスを、獣医師と都度設計

受診の目安:咳・呼吸異常、体重急減、誤嚥疑い、極端な拒薬が続く時は早めにご相談を

よくある“やってはいけない”3例

飲めないのに直接投与を続ける
 → 顔が薬でぐちゃぐちゃ、体重減少につながることがあります。

投薬瓶やスポイト先端を口内に差し込む
 → 気管は下顎の下。誤嚥・咳のリスクが上がります。

投薬瓶を口の中に入れてあげると誤嚥をおこす可能性があります。(筆者飼育鳥で悪い見本の写真撮影)

強引な保定でトラウマ化
 → 放鳥時に出てこない、薬や手を怖がる等。関係の修復に長期を要します。

まとめ:方法は“合うかどうか”がすべて

鳥の投薬は、薬の種類だけでなく「方法の設計」が成功のカギです。
直接投与が最適な場面もありますが、飲水投与は「ストレスが少なく継続しやすい」現実的な選択肢。体格や性格、病状、飼い主さんのスキルに合わせて、最小ストレスで最大効果を目指しましょう。

オダガワ動物病院からのご案内

自宅投薬でお困りの際は、動画や投与記録をお持ちのうえご相談ください。体重・飲水量・行動の変化から、その子に合う投薬方法(直接/飲水/補助テクニック)を一緒に設計します。
処方設計(濃度・量・回数)は鳥種・体重・疾患
により細かく調整します。飲水用原液の直接投与は厳禁です。
本コラムは一般的な情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。個別の判断は診察室で獣医師とご相談ください。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。