卵詰まりから卵管脱…危険な状態から回復したセキセイインコのケース【診断カルテ】

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■ はじめに:突然のおかしな様子に気づいた飼い主さん

「なんだか、お尻を気にして落ち着かない…」
「呼吸も荒いし、止まり木にじっとしている時間が増えた…」

飼い主さんが異変に気づいたのは、いつも元気なセキセイインコが、
総排泄腔(鳥の排泄・産卵の出口)を頻繁に気にし、
力むようなしぐさを繰り返していたことがきっかけでした。

小さな体で“踏ん張る”姿は一見かわいらしく見えることもありますが、
実は 卵がうまく出せない「卵詰まり(卵塞)」 の可能性があります。
放置すれば命に関わることもある、非常に危険な状態です。

今回ご紹介するのは、この卵詰まりが原因で
卵管が外へ飛び出してしまう「卵管脱」 が起きた症例です。

■ 診察と検査:卵が詰まり、卵管が脱出していた

来院されたインコは、
総排泄腔からピンク色の組織が飛び出している状態でした。
これは、力み続けたことで 卵管(産卵の通り道)が外へ脱出した 状態です。

● 触診

お腹に触れると、明らかに 卵が詰まっている感触 がありました。
卵が出口まで来ないため力み続け、その結果 卵管が押し出された と考えられます。

● レントゲン検査

レントゲンでは、卵の輪郭がうっすら確認できる程度。
殻がしっかり作られていない 軟卵(殻の形成不良) の可能性が高い状態でした。

● エコー検査

エコーでは卵の存在を明確に確認できました。

エコー写真

■ 治療:用手法で卵を摘出 → 総排泄腔を縫合

卵管が脱出したままでは、雑菌が入り感染リスクが高く、
またそのまま戻しても再び出てきてしまう可能性があります。

そこで治療方針として、
用手法(外からの手技)で軟卵を摘出
総排泄腔を一針縫合し、脱出を防ぐ
という流れで処置を行いました。

用手法で卵を摘出しているところ

摘出した卵は、正常な卵と比べても明らかに形が不完全で、
殻が薄く柔らかい「軟卵」でした。
栄養不足、カルシウム欠乏、環境ストレスなどが原因で起こることがあります。

普通の卵との比較(左:軟卵 右:通常)

■ 再トラブル:自宅で傷を気にして “自分で抜糸”

無事に卵を取り出し、一度は縫合して安定したものの…
自宅に戻ったその日のうちに、インコが総排泄腔を気にして 自分で糸を抜いてしまうトラブル が発生しました。

この結果、再び卵管が脱出。
幸い触診で卵は残っていないことを確認し、改めて総排泄腔を縫合し直しました。

この再発を受け、今回は 1日入院して経過観察 を行いました。

■ 経過と回復:再縫合後は安定し、3日後に無事回復

数日かけて経過を観察し、退院後3日目には抜糸も完了。
再脱出もなく、無事に回復しました。

卵詰まり → 卵管脱 → 再脱出
という非常にリスクの高い流れでしたが、早期の対応と継続したケアにより救命・治癒に至った症例です。

■ 再発予防のポイント:同じトラブルを防ぐために

鳥の卵詰まり・卵管脱を防ぐには、以下の点がとても重要です。

● 1)カルシウム・ビタミンDの適切な補給

軟卵の原因の多くは 栄養バランスの乱れ
ボレー粉・カトルボーンの準備、日光浴(UV)も重要です。

● 2)産卵環境の見直し

・巣材が過剰
・昼夜逆転
・発情を刺激する玩具や鏡
などは過剰産卵の原因になることがあります。

● 3)早期に異変に気づく

・いきむ
・食欲が落ちる
・お腹が張っている
・お尻を気にする
など、わずかな変化も見逃さないことが大切です。

● 4)卵詰まりは“急患”レベルで危険

放置すれば呼吸困難・敗血症・ショック症状につながるため、
異変を感じたらすぐに受診を。

■ 当院からのご案内

オダガワ動物病院では、小鳥・小動物の生殖器トラブル(卵詰まり、卵管脱、軟卵、過剰産卵)にも対応しています。

・レントゲン
・エコー
・迅速な摘出処置
・入院管理
など、一連の治療を院内で行うことが可能です。

「力んでいる」「お尻を気にしている」
こうした小さな変化が、大きな病気のサインであることも少なくありません。

大切な家族を守るため、気になる症状がある場合は
どうぞ早めにご相談ください。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。