3歳セキセイインコのメガバクテリア症に対しエキノカルデン製剤を使用した例|【診断カルテ】

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「最近、元気がなくて…。昼間なのに、ほとんど寝ていることが多いんです。」

今回来院されたのは、3歳のセキセイインコ(男の子)。
食欲も落ち、1日に1〜2回の嘔吐が見られる状態でした。

実はこの子、すでに他院で約2週間治療を受けていました。
抗菌薬(細菌を抑える薬)や胃腸薬を続けていたものの、症状は良くなるどころか、少しずつ悪化していったそうです。

「このまま様子を見ていていいのか不安で…」
そんな飼い主さんの思いから、当院を受診されました。

検査で見つかった“棍棒状の菌”

まず行ったのは糞便検査(検便)です。
顕微鏡で便を確認すると、写真で確認できるような棍棒(こんぼう)状の特徴的な菌が多数認められました。

メガバクテリウムの顕微鏡写真

これがいわゆるメガバクテリウム(メガバクテリア)です。

※メガバクテリウム
以前は細菌と考えられていましたが、現在は真菌(カビの仲間)に分類されています。

診断:メガバクテリア症(AGY症)

検査結果と症状から、メガバクテリア症と診断しました。

この病気は、
・元気消失
・食欲低下
・嘔吐
・体重減少

などを引き起こし、進行すると命に関わることもある病気です。

特にセキセイインコ・オカメインコ・マメルリハなどでは注意が必要です。

治療:抗真菌薬「エキノカルデン製剤」を使用

これまでの治療で改善が見られなかったことから、今回は抗真菌薬(真菌を抑える薬)であるエキノカルデン製剤を使用しました。

この子には
4日間連続で筋肉内注射を行いました。

すると、
・鳴くようになった
・活動性が戻ってきた
・嘔吐が止まった

と、明らかな回復が見られました。

エキノカルデンとは?(簡単に解説)

エキノカルデンはキャンディン系と呼ばれる新しいタイプの抗真菌薬です。

・真菌の細胞壁を作る酵素(1,3-β-グルカン合成酵素)を阻害
・動物の細胞には作用しないため副作用が比較的少ない

という特徴があります。

※この薬は経口投与では吸収されないため、鳥類では筋肉内注射で使用します。

すべての子が治るわけではありません

今回の症例は回復しましたが、すべてのメガバクテリア症が治るわけではありません。

当院の経験では、約30%のセキセイインコがメガバクテリウムを保有していると考えています。

症状が出ていなくても、体調を崩したことをきっかけに急に発症するケースも少なくありません。

予防と早期発見のために

セキセイインコを飼育している方には、鳥類診療が可能な動物病院での定期的な検便をおすすめしています。

また、
・食欲が落ちた
・吐くことが増えた
・昼間に寝ていることが多い

といった変化があれば、早めに受診することがとても重要です。

メガバクテリア症はセキセイインコ、カナリア、キンカチョウ、マメルリハインコ、オカメインコなどでは重篤な状態に進行することがあります。

オダガワ動物病院よりご案内

オダガワ動物病院では、犬猫だけでなく小鳥を含むエキゾチックアニマルの診療にも対応しています。

「いつもと様子が違う気がする」
その小さな違和感が、命を守るきっかけになることもあります。

セキセイインコの体調や消化器症状で不安がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。

※本症例は一例であり、治療反応や予後には個体差があります。治療方針は症状や状態に応じて獣医師が判断します。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。