昨日まで元気だったのに…尿が出なくなった10か月の猫ちゃん|診断カルテ

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「あれ?トイレで何度もしゃがんでる」

昨日まで元気に遊んでいた生後10か月のアメリカンショートヘア。
ところが飼い主さんがふと様子を見ると、トイレで何度もしゃがんでいるのに、尿がほとんど出ていません。時間が経つにつれ、落ち着かない様子に。
「もしかして膀胱炎?」と不安になり、すぐに当院を受診されました。

来院時の状態

触診でお腹を優しく触ると、膀胱がパンパンに張っている感触。尿道が詰まり、尿が出なくなっている可能性が高い状態でした。
尿路閉塞は、4日間尿が出ないと命に関わる危険な病気です。放置はできません。

検査と診断

画像検査

レントゲン・エコーで膀胱の拡張を確認。結石の影はありませんでした。すぐにカテーテルで尿を排出しました。

赤矢印が膀胱を指します。尿が出ていないので大きくなっています。

尿検査の結果

・pH:7.0(猫の正常は6.5前後=弱酸性)
・潜血:+
・蛋白:+
・ブドウ糖:+(強い興奮が原因と判断)
・尿比重:1.050

さらに沈渣(尿を遠心分離した沈殿物)を顕微鏡で観察すると、ストルバイト結晶と赤血球が確認されました。
ストルバイト結晶は尿がアルカリ性に傾くと析出しやすく、膀胱炎や尿道閉塞の原因となります。

遠心分離すると赤血球、結晶成分が沈殿しました。
沈殿した部分を顕微鏡で見ると赤血球、ストロバイト結晶(pH7.0になると析出)が見られました。

なぜストルバイト結晶ができるの?

原因はひとつではありません。

・飲水不足
・運動不足
・肥満
・リンやマグネシウムの過剰摂取
・下部尿路疾患の既往

ただし、同じ生活環境でも結晶ができない猫も多く、体質の影響も大きいと考えられます。

治療と今後の管理

今回は、

1.膀胱洗浄
2.抗生剤処方
3.専用療法食(ロイヤルカナン 尿ケア)開始

このフードは通常1歳以上からが対象ですが、再発のリスクが高いことを説明し、生後10か月から導入しました。
当院の経験では、療法食をやめると約70%が再発します。そのため、他の病気がない場合は食事療法を継続していただくようお願いしています。

飼い主さんへのお願い

・尿の色や量、トイレでの様子を日常的に観察すること

・水分摂取を増やす工夫(複数の給水ポイントやウェットフード)

・定期的な尿検査でpHや結晶の有無をチェックすること

獣医師からのメッセージ

尿路閉塞は昨日まで元気だった猫が、突然命の危機に陥る病気です。
「トイレに何度も行く」「出ていないのにしゃがむ」などの行動は、見逃してはいけないサインです。
早期発見と治療、そして再発予防のための継続的なケアが、猫ちゃんの健康を守ります。

当院では、猫の尿路疾患(膀胱炎・結石・尿路閉塞など)の診断・治療・再発予防に力を入れています。
「トイレの回数が多い」「尿が出にくそう」「血尿がある」などの症状が見られたら、すぐにご相談ください。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。