なぜフィラリア予防は必要?蚊が運ぶ恐ろしい寄生虫の話|診断カルテ

フィラリアとは

フィラリア(犬糸状虫症)は蚊によって媒介され、犬の心臓や肺動脈に寄生する寄生虫です。
成虫はメスで約25〜30cm、オスで約12〜20cmになり、血液中の栄養を吸って生きます。
寄生すると全身の血液循環や内臓に深刻な障害を与え、放置すれば命に関わります。

20〜25年前までは、フィラリア感染で5〜6歳という若さで命を落とす犬も珍しくありませんでした。
現在は予防薬の普及で発症は大幅に減りましたが、予防の重要性を知らない飼い主さんもおられます。

心臓に感染している犬フィラリアの標本(目黒寄生虫博物館)

なぜ予防が必要か

蚊が媒介するため、室内飼育でも感染リスクあり

犬やフェレットは特にかかりやすく、猫も感染することがあります

一度感染すると治療は体への負担が大きく、重症化すれば命の危険も

予防の流れ

1. 予防薬は血液検査が必須

予防を始める前にはフィラリア抗原検査で感染していないことを確認します。
感染した状態で予防薬を投与すると、副作用が出る恐れがあるためです。

2. 検査で陰性なら予防開始

川崎市多摩区近郊では、蚊の活動期(5月〜11月または12月)にあわせて予防を行います。方法は以下の3つです。

・月1回の経口投与薬
・月1回の皮膚滴下薬
・年1回の注射タイプ

検査方法

犬フィラリア抗原検査キット
感度が高く、広く使用されています。

写真の左がフィラリア陰性、右がフィラリア陽性になります。
〇の部分に血液を1-2滴たらし、試薬をいれると3分位で結果がわかります。

・集中法・直接法(顕微鏡検査)
ミクロフィラリアを直接観察できますが、検出率は抗原検査より低くなります。

ミクロフィラリアの顕微鏡所見

蚊の予防も大切

フィラリア予防は薬だけでなく、蚊に刺されない環境づくりも重要です。
日本にはフィラリアを媒介する蚊が16種類以上います。

特に注意が必要な蚊

ヒトスジシマカ:昼間に活動、小さな水たまりや植木鉢の受け皿でも繁殖

チカイエカ:冬でも活動、地下や屋内水場で繁殖。まれに通年予防が必要になるケースもあります。

獣医師からのメッセージ

フィラリアは「昔の病気」ではありません。予防を怠れば、今でも命を奪う恐れがあります。
予防薬と環境対策の両輪で、大切な家族を守りましょう。

当院ではフィラリア予防のための血液検査と予防薬処方を行っています。
初めての方もお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。