14歳の犬が多飲多尿で来院|検査で分かった糖尿病と治療の流れ【診断カルテ】

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はじめに:飼い主目線のエピソード

「最近、うちの子がお水をたくさん飲んで、おしっこの回数も増えている気がするんです…」
川崎市多摩区登戸に住む飼い主さんが、14歳の避妊済みの雌犬を連れて来院されました。この日はご飯を食べないとのことで、年齢も考えると不安が募り、診察を受けることになりました。

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犬の糖尿病とは?

犬の糖尿病は、人と同じくインスリンというホルモンが十分に働かないために血糖値が高い状態が続く病気です。

Ⅰ型糖尿病(インスリン欠乏型)
膵臓のインスリンを作る細胞(膵島)が壊れ、多くの場合インスリン分泌が失われる。犬ではこちらが多い。

Ⅱ型糖尿病(インスリン抵抗性型)
肥満や感染症が原因でインスリンが効きにくくなる。猫で多い。

犬の糖尿病は基本的にⅠ型であり、インスリンの投与が必須になります。

検査でわかったこと(診断の流れ)

身体検査と画像検査

レントゲンやエコーでは大きな異常は認められませんでした。

血液検査・生化学検査

血糖値(GLU)
高値 → 糖尿病の疑い

中性脂肪
上昇 → エネルギー代謝の異常を示唆

膵リパーゼ(LIP)
高値 → 膵炎など膵疾患の可能性

糖尿病が進行するとブドウ糖が利用できず、代わりに脂肪がエネルギー源として分解されます。このときに産生されるのがケトン体です。ケトン体が増えすぎると「ケトアシドーシス」という危険な状態になります。

尿検査

尿糖:強陽性
尿中ケトン体:やや陽性

糖尿病の典型的な所見がそろいました。

追加検査

犬インスリン値
基準範囲内だが低め

糖化アルブミン
42.4%(高値) → 長期にわたる高血糖を反映

犬膵特異的リパーゼ
627(高値) → 膵疾患の合併を示唆

診断

以上の結果から、軽度のケトアシドーシスを伴うⅠ型糖尿病と診断しました。

治療と経過

点滴治療

まずはケトアシドーシスを改善するために点滴を実施。入院当日の夜には食欲が戻りました。

インスリン投与の開始

翌日からインスリン注射を開始。血糖値をコントロールし、体調を安定させました。

継続的な管理

月1回の通院で血糖(GLU)、膵リパーゼ(LIP)、糖化アルブミンを定期的にチェック。飼い主さんによる食事管理・体重管理とあわせて、治療を続けました。

その結果、この犬は診断後2年間、元気に生活を続けることができました。

犬の糖尿病の予防と早期発見のために

日常の観察
水をよく飲む(多飲)、おしっこの量が増える(多尿)、体重減少、食欲低下などの変化を見逃さない。

定期健康診断
高齢犬では年2回の血液検査・尿検査が推奨されます。

食事と体重管理
肥満は糖尿病や膵炎のリスクを高めます。適正体重を維持することが大切です。

まとめ

犬の糖尿病は、高齢犬に多い病気です。放置するとケトアシドーシスなど命に関わる状態に進行することもあります。
「水をよく飲む」「おしっこの量が多い」などのサインが見られたら、早めの受診が安心です。

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この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。