愛犬が薬を誤って飲んでしまったら?【診断カルテ】

更新

飼い主さんの目線から

「買い物から帰宅したら、薬の瓶が空っぽになっていました。まさか、愛犬が全部食べてしまったなんて…」
これは、実際に当院へ相談が寄せられた飼い主さんの言葉です。犬は思っている以上に好奇心旺盛で、特におやつのような匂いや味のする薬は、誤飲のリスクが高くなります。

犬が薬を誤飲したときに起こる症状

薬の種類や量によって、体に与える影響は大きく異なります。

犬用の関節炎治療薬(リマダイル/カルプロフェン)

あるご家庭では、骨関節症の治療のため毎日リマダイルを与えていました。
1日1錠のはずが、買い物から帰ると90錠近くが空に…。
すぐに動物病院に駆け込みましたが、量によっては致死的になる恐れがあります。

リマダイル

フィラリア予防薬(イベルメクチン配合)

別の飼い主さんは、犬舎の上に置いたフィラリア予防薬のチュアブルを、外出中に全部食べられてしまいました。
7錠を一度に食べたのですが、幸い大きな異常は出ませんでした。
ただし、体格や犬種によっては神経症状が出る可能性もあるため、「大丈夫そうだから安心」と思うのは危険です。

フィラリア予防薬
ビーフジャーキーを連想させる形状

人用の鎮痛薬(NSAIDs)

さらに深刻だったのは、人間用の鎮痛薬を誤飲したケースです。
ある柴犬は、飼い主さんのバッグから糖衣錠を10錠ほど食べてしまいました。
夜間救急を受診したものの、その後も痙攣が止まらず、当院で抗痙攣薬や輸血を行うことに。回復まで2週間、生死の境をさまようほどの重症例でした。

ヒト用非ステロイド

薬の成分や摂取量によって症状の重さは異なり、検査(血液検査・画像検査)を行って体内の影響を確認します。

治療の流れ

誤飲した薬の種類や量に応じて、治療内容も変わります。

吐かせる処置(短時間での誤飲の場合)
・点滴や輸液で体内から薬を排出しやすくする
・抗痙攣薬の投与輸血などの集中治療が必要になるケースもあります

実際に、人用薬を飲んでしまった柴犬は夜間救急を受診後も痙攣が止まらず、当院で抗痙攣薬や輸血を行い、回復に2週間を要しました。最初の1週間は命の危険と隣り合わせでした。

予防の大切さ

薬の誤飲は、飼い主さんが「ちょっと置いておいただけ」で起きてしまいます。

・犬用、人用を問わず薬は必ず犬の手の届かない場所に保管する
・チュアブル(おやつタイプ)の薬は特に注意
・カバンやテーブルの上にも置かない

当院でも、毎年1〜2件は薬の誤飲の相談が寄せられています。未然に防ぐことが、何より大切です。

まとめ

薬の誤飲は、どの犬にも起こり得る身近な事故です。異変に気づいたらすぐに動物病院へ連絡し、指示を仰いでください。

オダガワ動物病院のご案内

オダガワ動物病院(川崎市多摩区)は、犬・猫を中心に、エキゾチックアニマルの診療にも対応しています。誤飲や中毒などの緊急対応はもちろん、日々の健康管理や予防医療についてもご相談いただけます。

大切なご家族の健康でお困りの際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

鈴木 透

1959年生まれ。 1984年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業。学生時代から動物の病気や治療に強い関心を持ち、獣医師としての知識と技術を深めるべく、1986年には同大学大学院獣医畜産学部獣医学専攻を修了。大学院では小動物の臨床研究に携わり、実践的な診療スキルと基礎医学の両面から専門性を高めた。 その後、日本獣医生命科学大学にて研究生として在籍し、さらに高度な専門知識と研究経験を積む。臨床現場と学術の両方での経験を活かし、1991年、地域に根ざした獣医療を提供するために「オダガワ動物病院」を開設。以降、30年以上にわたり、飼い主と動物の信頼関係を大切にした診療を心がけ、多くの症例と向き合ってきた。