
夜中に突然始まる愛犬の鳴き声。何度なだめても止まらず、飼い主様も眠れない夜が続く…
そんなつらい状況に悩んでいませんか?犬の夜泣きは、飼い主様にとっても愛犬にとっても心身の負担が大きい問題です。
犬が夜に鳴く理由は一つではありません。環境への不安、分離不安、運動不足といった行動的な要因もあれば、痛みや病気が隠れているケースもあります。特に老犬の場合は認知機能の低下が関係していることも少なくありません。つまり、夜泣きは単なる「わがまま」や「癖」ではなく、愛犬からの何らかのサインである可能性が高いのです。
この記事では、獣医師の立場から犬の夜泣きについて詳しく解説していきます。具体的には、夜泣きの原因を環境・行動・病気の観点から整理し、家庭でできる実践的な対策をご紹介します。また、どのような症状が見られたら動物病院を受診すべきか、その判断基準についてもお伝えします。
愛犬が安心して眠れる環境をつくることは、飼い主様ご自身の生活の質を守ることでもあります。一人で悩まず、正しい知識を持って対応していきましょう。オダガワ動物病院では、夜泣きに関するご相談も丁寧にお受けしています。この記事が、飼い主様と愛犬の穏やかな夜を取り戻す一助となれば幸いです。
犬の夜泣きとは?どんな状態を指すのか

夜泣き(夜鳴き)の定義とよくある行動例
犬の夜泣きとは、夜間や明け方にかけて犬が鳴いたり吠えたりする行動を指します。具体的には、「クーン」「ワンワン」といった鳴き声を繰り返す、ケージの前で立ち止まって飼い主を呼ぶ、部屋の中を落ち着きなく徘徊する、ドアの前でじっと待っているといった行動が典型的です。
これらの行動は、日中には見られないのに夜間だけ現れるという点が特徴です。中には一晩中断続的に鳴き続ける子もいれば、特定の時間帯だけ鳴く子もいます。鳴き声の大きさや頻度は犬によってさまざまですが、いずれにしても飼い主様の睡眠を妨げ、近隣への配慮も必要になるため、早めの対応が求められます。
年齢別で異なる夜泣きの特徴
犬の夜泣きは年齢によって原因や特徴が大きく異なります。
子犬の場合は、新しい環境への不安や分離不安が主な原因です。母犬や兄弟犬と離れて初めて迎えられた家で、一人で寝ることに恐怖を感じているケースが多く見られます。また、トイレの失敗を気にしていたり、空腹や寒さといった生理的な不快感を訴えていることもあります。
成犬の夜泣きは、生活リズムの乱れやストレスが背景にあることが一般的です。日中の運動不足や刺激不足によって昼夜逆転が起こり、夜に活動的になってしまうパターンです。また、飼い主様の生活スタイルの変化、引っ越し、新しい家族の加入といった環境の変化も夜泣きの引き金になります。
老犬の夜泣きは、認知機能の低下が大きく関係しています。人間の認知症と同じように、犬も加齢とともに脳の機能が衰え、昼夜の区別がつきにくくなったり、方向感覚が失われたりします。夜間に突然目を覚まして不安になり、飼い主を探して鳴くといった行動が典型的です。また、関節炎など加齢に伴う痛みが夜間に強く感じられることも、老犬の夜泣きの一因となります。
一時的か?慢性か?見極めが重要
夜泣きへの対応を考える上で重要なのが、それが一時的なものなのか、それとも慢性化しているのかを見極めることです。
一時的な夜泣きは、環境の変化や一過性のストレスによって起こります。たとえば、引っ越しの直後、家族旅行から帰った後、来客があった日の夜などに限定的に見られる夜泣きは、多くの場合数日から数週間で自然に落ち着いていきます。この場合は、安心できる環境を整え、過度に反応しすぎないように見守ることが基本です。
一方、毎晩のように夜泣きが続く、日に日に悪化している、鳴き声とともに他の症状も見られるといった場合は、何らかの病気や慢性的な問題が隠れている可能性があります。こうしたケースでは、家庭での対策だけでは改善が難しく、専門的な診断と治療が必要になることがあります。
夜泣きが始まった時期、頻度、持続時間、鳴き方の変化などを記録しておくと、動物病院での診察時に非常に役立ちます。可能であれば、夜泣きの様子を動画で撮影しておくこともおすすめします。
犬の夜泣きの主な原因を徹底解説

①環境・習慣に起因するもの
犬の夜泣きの原因として最も多いのが、睡眠環境や生活習慣に関する問題です。
ケージの設置場所は特に重要です。飼い主様から完全に離れた場所にケージがあると、犬は孤独感や不安を感じやすくなります。逆に、人の出入りが多い場所や窓の近くなど、音や光の刺激が多い場所も落ち着いて眠れません。リビングの片隅など、飼い主様の気配を感じつつも静かに休める場所が理想的です。
昼夜逆転も大きな問題です。日中ずっと寝ていて夜になると元気になる犬は、夜間に活動したくて鳴くことがあります。特に一人暮らしの飼い主様が日中不在で、帰宅後に遊ぶ時間が深夜になってしまうようなケースでは、犬の生活リズムが乱れやすくなります。
運動不足も見逃せない要因です。犬は本来、体を動かすことでエネルギーを発散し、疲れて眠りにつく動物です。散歩の時間が短い、室内でじっとしている時間が長いといった状況では、夜になってもエネルギーが余ってしまい、落ち着いて眠れません。
また、食事や排泄のタイミングも夜泣きに影響します。夕食が早すぎて夜中に空腹になる、就寝前の排泄が不十分で夜間にトイレに行きたくなるといったケースでは、犬は不快感を訴えて鳴くことになります。
②ストレス・不安
心理的な要因も夜泣きの大きな原因です。中でも分離不安は、犬の夜泣きにおいて非常に多く見られます。
分離不安とは、飼い主様と離れることに強い不安を感じる状態です。日中は飼い主様と一緒にいられても、夜になって別々の部屋で寝る、あるいはケージに入れられることで不安が高まり、鳴いて飼い主様を呼ぼうとします。特に飼い主様への依存度が高い犬や、過去に捨てられた経験がある保護犬などに見られやすい傾向があります。
留守番時間が長くなったことも、夜泣きの引き金になります。飼い主様の仕事の都合で留守番時間が延びた、在宅勤務から出勤に変わったといった変化があると、犬は日中の孤独感を夜に訴えることがあります。
生活環境の変化も大きなストレス要因です。引っ越し、家族構成の変化(赤ちゃんの誕生、同居人の増減)、他のペットの加入といった出来事は、犬にとって大きな不安材料となります。新しい環境に慣れるまでの期間、夜泣きが増えることは珍しくありません。
攻撃性がなくても、不安から鳴き声を上げることは十分にあります。犬の鳴き声は必ずしも要求や抗議ではなく、「怖い」「不安だ」という感情表現である場合も多いのです。
③身体の痛みや違和感
夜泣きが身体的な不快感や痛みのサインである可能性も考えなければなりません。
関節炎は、特に中高齢の犬でよく見られます。日中は動いているうちに関節が温まり痛みを感じにくいのですが、夜間に横になって体が冷えてくると痛みが増すことがあります。腰や膝、肘などの関節に炎症がある犬は、寝返りを打つときや立ち上がるときに痛みを感じて鳴くことがあります。
腰痛や椎間板疾患も同様です。ダックスフンドやコーギーなど胴長犬種では椎間板ヘルニアのリスクが高く、夜間に痛みが出やすい傾向があります。痛みで体勢を変えられず、不快感から鳴いてしまうのです。
皮膚疾患によるかゆみも見落とせません。アレルギー性皮膚炎、外部寄生虫(ノミ、ダニ)、細菌感染などがあると、夜間に体温が上がることでかゆみが増すことがあります。犬は掻きむしりたい衝動を抑えられず、落ち着きを失って鳴くことがあります。
耳のトラブル、特に外耳炎も夜泣きの原因になります。耳の中に炎症や異物があると、横になったときに痛みや違和感が強まります。頭を振ったり、耳を床にこすりつけたりしながら鳴く場合は、耳の問題を疑うべきです。
④認知機能不全症候群(老犬の夜泣き)
老犬の夜泣きで最も注意すべきなのが、認知機能不全症候群です。人間でいう認知症に相当する状態で、加齢とともに脳の機能が低下することで起こります。
認知機能不全症候群の犬は、夜間の徘徊が特徴的です。部屋の中をぐるぐると歩き回る、壁や家具の隅に入り込んでしまう、同じ場所を行ったり来たりするといった行動が見られます。そして、自分がどこにいるのか分からなくなり、不安から鳴き続けることがあります。
方向感覚の喪失も典型的な症状です。普段慣れている部屋でも、家具の配置が分からなくなったり、出口が見つけられなくなったりします。夜中に目が覚めたとき、自分がどこにいるのか、飼い主様がどこにいるのかが分からず、パニック状態で鳴くことがあります。
飼い主様の認識が低下することもあります。日中は飼い主様を認識できていても、夜間に突然「知らない人がいる」と感じて不安になり、鳴いたり吠えたりすることがあります。また、昼夜の区別がつかなくなり、深夜に散歩や食事を要求することもあります。
認知機能不全症候群は進行性の疾患であり、完全に治すことは難しいのが現実です。しかし、早期に診断して適切なケアを行うことで、症状の進行を遅らせたり、生活の質を維持したりすることは可能です。
⑤病気による症状の一部
夜泣きが病気のサインである場合もあります。特に注意が必要な疾患をいくつかご紹介します。
心臓病を持つ犬は、夜間に呼吸が苦しくなることがあります。横になると肺に血液が溜まりやすくなり、咳が出たり呼吸が荒くなったりします。この苦しさから夜泣きをすることがあり、放置すると命に関わる状態になる可能性があります。
腎臓病の犬は頻尿になります。夜間に何度もトイレに行きたくなり、飼い主様に訴えるために鳴くことがあります。また、腎臓の機能低下によって体内に老廃物が溜まると、吐き気や倦怠感が生じ、それが夜泣きにつながることもあります。
甲状腺機能亢進症は、猫に多い病気ですが犬でも見られることがあります。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、興奮しやすくなったり不安感が増したりして、夜間の落ち着きのなさや夜泣きとして現れることがあります。
消化器の不調も夜泣きの原因になります。胃腸炎、膵炎、胃酸過多などによって腹部に不快感や痛みがあると、横になることがつらく、姿勢を変えながら鳴くことがあります。また、便秘や下痢の前兆として、お腹の違和感を訴えて鳴くこともあります。
【チェックリスト】今すぐ確認すべき夜泣きの背景
夜泣きが病気のサインかどうかを見極めるために、以下の点をチェックしてみてください。
食欲の変化はありますか。急に食欲が落ちた、あるいは異常に食べるようになった場合は、何らかの病気が隠れている可能性があります。呼吸の様子にも注意してください。呼吸が速い、荒い、咳が出る、ゼーゼーという音がするといった症状があれば、呼吸器や心臓の問題が考えられます。
飲水量や排尿回数の変化も重要です。水をたくさん飲むようになった、おしっこの回数が増えた、あるいは逆に減ったといった変化は、腎臓や内分泌系の病気を示唆します。体重の増減も見逃せません。食べているのに痩せてきた、運動していないのに太ってきたといった場合は、代謝異常の可能性があります。
歩き方や姿勢の変化にも気をつけましょう。足を引きずる、段差を嫌がる、座り方がおかしい、背中を丸めているといった様子が見られたら、痛みがある証拠です。皮膚や被毛の状態、耳や目の様子、口臭や歯の状態なども、定期的にチェックする習慣をつけましょう。
これらの症状が一つでも当てはまる場合は、夜泣きが病気のサインである可能性が高いため、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
犬の夜泣き対策|今日からできる実践ケア

①安心して眠れる環境づくり
夜泣き対策の基本は、犬が安心して眠れる環境を整えることです。
ケージの設置場所は慎重に選びましょう。飼い主様の寝室の近く、あるいは寝室の片隅にケージを置くことで、犬は飼い主様の存在を感じながら安心して眠ることができます。ただし、完全に同じベッドで寝ることは依存度を高める可能性があるため、適度な距離感を保つことが大切です。
遮光カーテンを使って、朝方の光で早く目覚めてしまうことを防ぎましょう。犬は光に敏感なので、日の出とともに起きてしまうことがあります。また、外の騒音が気になる場合は、窓から離れた場所にケージを置く、あるいは静音対策として厚手のカーテンやドアを閉めるといった工夫も有効です。
寝床の快適さも重要です。寒すぎず暑すぎず、犬が快適に感じる温度を保ちましょう。冬場は毛布やヒーターを、夏場は通気性の良い素材のベッドを用意します。寝床の材質も犬の好みに合わせて選びましょう。ふかふかのベッドを好む子もいれば、硬めのマットを好む子もいます。
クレートトレーニングも効果的です。クレート(移動用のキャリーケース)を「安全で落ち着ける場所」として認識させることで、夜間も安心して過ごせるようになります。日中からクレートの中でおやつをあげたり、扉を開けたまま自由に出入りさせたりして、クレートに対する良いイメージを作っていきましょう。
②日中の刺激と運動量を見直す
夜にぐっすり眠るためには、日中の過ごし方が非常に重要です。
散歩は量より質を重視しましょう。ただ歩くだけでなく、においを嗅がせたり、少し早歩きをしたり、ちょっとした段差を歩かせたりすることで、脳と体の両方に刺激を与えることができます。犬種や年齢に応じた適切な運動量を確保することが、夜の良質な睡眠につながります。
知育玩具やノーズワークも取り入れてみましょう。嗅覚を使った遊びは犬にとって非常に満足度が高く、頭を使うことで適度な疲労感を得られます。コングにフードを詰めて与える、おやつを隠して探させる、スニッフィングマットを使うといった遊びは、雨の日の運動不足解消にも役立ちます。
日中の昼寝についても管理が必要です。一日中寝ている犬は夜に活動的になってしまいます。日中は適度に声をかけたり遊んだりして、完全に寝かせっぱなしにしないようにしましょう。特に飼い主様が在宅勤務の場合は、定期的に犬と触れ合う時間を作ることが大切です。
③就寝前のルーティンづくり
規則正しい生活リズムは、犬の夜泣き対策に非常に効果的です。
就寝前の排泄管理は必須です。寝る直前に必ずトイレに連れて行き、しっかりと排泄させましょう。特に老犬は膀胱のコントロールが弱くなっているため、夜中にトイレに行きたくなることがあります。就寝前に確実に排泄を済ませることで、夜間のトイレの訴えを減らすことができます。
飲水管理も考慮が必要です。就寝直前に大量の水を飲ませると、夜中に頻尿になってしまいます。夕方以降は水の量を調整し、最後の散歩の後に少量だけ飲ませるようにしましょう。ただし、水を完全に制限することは脱水のリスクがあるため、獣医師と相談しながら適切な量を決めてください。
就寝前はゆったりとした時間を確保しましょう。興奮させるような激しい遊びは避け、優しく撫でたり、静かに話しかけたりして、落ち着いた雰囲気を作ります。毎晩同じ時間に同じルーティンを繰り返すことで、犬は「もう寝る時間だ」と認識するようになります。
鳴いてもすぐに反応しすぎないことも重要です。夜中に鳴いたときにすぐに駆けつけると、犬は「鳴けば飼い主が来てくれる」と学習してしまいます。もちろん、痛みや緊急の訴えは別ですが、単なる要求吠えの場合は少し様子を見る勇気も必要です。泣き止んだタイミングで声をかけるなど、「静かにしているときに注目する」という対応を心がけましょう。
④分離不安への対応法
分離不安が夜泣きの原因である場合は、段階的なトレーニングが必要です。
まずは飼い主様が見えない状態に慣れさせることから始めます。日中、短時間だけ別の部屋に行く、扉を閉めて数分待つといった練習を繰り返します。最初は数秒から始めて、徐々に時間を延ばしていきましょう。戻ったときに大げさに喜ばず、何事もなかったかのように接することがポイントです。
短時間の留守番練習も効果的です。実際に外出するふりをして、玄関を出て数分後に戻ってくる、といった練習を繰り返します。犬が落ち着いて待てるようになったら、徐々に留守番時間を延ばしていきます。
過剰な入室退室儀式は避けましょう。「行ってくるね」と何度も声をかけたり、「ただいま」と大げさに喜んだりすることは、かえって犬の不安を高めます。出かけるときも帰ってきたときも、淡々と接することで、犬は「飼い主の出入りは日常的なことだ」と理解するようになります。
分離不安の改善には時間がかかります。焦らず、少しずつ進めることが大切です。どうしても改善が見られない場合は、動物行動学の専門家やドッグトレーナーに相談することも検討しましょう。
⑤子犬・老犬特有のケア方法
子犬の夜泣き対策では、社会化と安心感の提供が鍵となります。新しい家に来たばかりの子犬は、母犬や兄弟と離れた寂しさで夜泣きをします。最初の数日は、飼い主様の匂いがついたタオルや、時計の音(心拍音に似ている)を近くに置くことで、安心感を与えることができます。また、適度に日中遊んで疲れさせることも効果的です。
老犬の夜泣き対策では、認知機能の低下に配慮した環境整備が必要です。夜間にトイレに行きやすいよう、ケージからトイレまでの動線を確保しましょう。暗闇で方向感覚を失わないよう、フットライトなど薄暗い照明を設置することも有効です。また、老犬は体温調節が苦手になるため、季節に応じた温度管理も重要です。
認知機能が低下した老犬には、日中の刺激も大切です。短い散歩でも、外の空気を吸って日光を浴びることで、昼夜のリズムを保つことができます。無理のない範囲で、犬の生活に変化と刺激を与え続けましょう。
夜泣きが病気のサインかを見極める

「夜泣き+●●」の組み合わせは要注意
夜泣きに他の症状が伴う場合は、病気の可能性が高くなります。
夜泣きと咳の組み合わせは、心臓病や呼吸器疾患のサインかもしれません。特に横になったときに咳が出る、呼吸が荒くなるといった症状がある場合は、心不全の可能性があります。夜泣きと多飲多尿が同時に見られる場合は、腎臓病、糖尿病、クッシング症候群などが疑われます。
足の震えや歩行異常を伴う夜泣きは、神経疾患や関節疾患の可能性があります。発熱がある場合は感染症や炎症性疾患、嘔吐がある場合は消化器疾患が考えられます。これらの症状が一つでも見られたら、速やかに動物病院を受診してください。
動物病院で行う検査
夜泣きの原因を特定するために、動物病院ではさまざまな検査を行います。
まず基本的な身体検査で、全身の状態をチェックします。聴診で心音や呼吸音の異常を確認し、触診で痛みのある部位や腫れを探します。次に血液検査を行い、臓器の機能、炎症の有無、ホルモンバランスなどを調べます。
必要に応じて、レントゲン検査で骨や関節の状態、胸部や腹部の臓器の異常を確認します。心臓病が疑われる場合は心エコー検査を行い、心臓の動きや弁の状態を詳しく調べます。
認知機能の評価も重要です。質問票を使った評価や、実際の行動観察を通じて、認知機能不全症候群の可能性を判断します。老犬の夜泣きでは、この評価が診断と治療方針の決定に大きく役立ちます。
治療の選択肢(原因によって異なる)
夜泣きの原因によって、治療法は大きく異なります。
関節炎などの痛みが原因の場合は、消炎鎮痛薬やサプリメントを使用します。痛みが軽減されることで、夜間も快適に眠れるようになります。心臓病の場合は、利尿薬や強心薬による内科治療を行います。腎臓病の場合は、食事療法と点滴治療が中心となります。
認知機能不全症候群に対しては、脳の血流を改善する薬や、脳の神経伝達を助けるサプリメントを使用することがあります。完全に治すことは難しいですが、症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することが治療の目標となります。
行動的な問題が原因の場合は、生活指導が中心となります。睡眠衛生の改善、つまり規則正しい生活リズム、適切な運動量、安心できる睡眠環境の整備などを獣医師と相談しながら進めていきます。場合によっては、一時的に抗不安薬を使用することもありますが、薬だけに頼るのではなく、環境改善と行動修正を組み合わせた総合的なアプローチが重要です。
薬・サプリ・フードでサポートする方法

鎮静薬・抗不安薬の使用は慎重に
夜泣きに対して薬物療法を検討する場合、必ず獣医師の診断と処方が必要です。
抗不安薬や軽い鎮静薬は、重度の分離不安や認知機能不全症候群による夜泣きに対して処方されることがあります。これらの薬は犬の不安を和らげ、夜間の落ち着きを取り戻すのに役立ちますが、副作用のリスクもあります。ふらつき、食欲低下、過度の眠気などが見られることがあるため、使用開始後は慎重に様子を観察する必要があります。
薬は一時的な補助手段であり、根本的な解決策ではありません。環境改善や行動修正と併用することで、徐々に薬の量を減らしていくことが理想です。自己判断で薬を増減したり、人間用の睡眠薬を与えたりすることは絶対に避けてください。
老犬の脳機能ケア用サプリメント
認知機能の低下が見られる老犬には、脳の健康をサポートするサプリメントが有効な場合があります。
DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸は、脳の細胞膜を構成する重要な成分であり、脳の血流改善や神経伝達の円滑化に役立ちます。魚油由来のサプリメントとして市販されており、獣医師の指導のもとで適切な量を与えることができます。
抗酸化成分も注目されています。ビタミンE、ビタミンC、セレンなどの抗酸化物質は、脳の老化を促進する活性酸素を除去する働きがあります。また、イチョウ葉エキスやアスタキサンチンなども、脳の血流改善や神経保護作用が期待されています。
ただし、サプリメントの効果には個体差があり、すべての犬に劇的な改善が見られるわけではありません。また、他の薬との相互作用がある場合もあるため、必ず獣医師に相談してから使用を始めましょう。
睡眠の質を高める栄養
食事の内容も、犬の睡眠の質に影響を与えます。
トリプトファンは、脳内でセロトニンというリラックスを促す神経伝達物質の材料となるアミノ酸です。トリプトファンを多く含むフードを与えることで、犬の落ち着きや睡眠の質が向上する可能性があります。七面鳥肉、鶏肉、魚などに多く含まれています。
乳酸菌などのプロバイオティクスも注目されています。腸内環境と脳の健康には深い関係があることが分かってきており、腸内環境を整えることで、ストレスへの耐性が高まったり、気分が安定したりする効果が期待されています。
ビタミンB群も神経系の健康に重要です。特にビタミンB6やB12は、神経伝達物質の合成に関わっており、不足すると不安感や興奮性が高まることがあります。バランスの取れた総合栄養食を与えていれば通常は不足しませんが、手作り食の場合は注意が必要です。
夜間トイレ・消化負担を考慮したフード調整
夜泣きの原因が夜間の空腹感や頻尿である場合は、食事の内容やタイミングを調整することが有効です。
夕食の時間を少し遅めにすることで、夜間の空腹感を防ぐことができます。ただし、就寝直前の食事は消化に負担がかかるため、就寝の2〜3時間前には済ませるようにしましょう。また、夕食の量を増やしすぎると消化不良や肥満の原因になるため、1日の総カロリーは変えずに、朝食と夕食の配分を調整することがポイントです。
消化しやすいフードを選ぶことも大切です。特に老犬や胃腸が弱い犬では、消化に時間がかかるフードは夜間の不快感につながります。消化器サポート用の処方食や、繊維質が適度に含まれたフードを選ぶとよいでしょう。
夜間の頻尿が問題の場合は、夕方以降の水分摂取量を調整しつつ、塩分控えめのフードを選ぶことも検討します。ただし、腎臓病などで水分制限が必要な場合は、必ず獣医師の指導に従ってください。
オダガワ動物病院では、個々の犬の状態に合わせた食事指導やサプリメントのご提案も行っています。夜泣きの原因に応じて最適な栄養サポートをご案内しますので、お気軽にご相談ください。
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飼い主を守るメンタルケアも重要

夜泣きは飼い主側もダメージ大
犬の夜泣きは、飼い主様の心身に大きな負担をかけます。毎晩のように睡眠を妨げられると、日中の集中力が低下し、仕事や家事に支障が出ることもあります。慢性的な睡眠不足は、イライラや抑うつ感を引き起こし、精神的な健康にも悪影響を及ぼします。
さらに厄介なのは、飼い主様のストレスが犬に伝わってしまうことです。犬は飼い主様の感情に非常に敏感で、飼い主様が不安定な状態だと犬も落ち着きを失います。つまり、飼い主様がイライラしていると犬の夜泣きが悪化し、それがまた飼い主様のストレスを増やすという悪循環に陥ってしまうのです。
「自分の対応が悪いから夜泣きが治らないのではないか」「もっとしっかりしつけをしておけばよかった」と自分を責める飼い主様も少なくありません。しかし、夜泣きは飼い主様の責任ではなく、さまざまな要因が絡み合って起こる問題です。自分を責めすぎず、冷静に対処することが大切です。
一人で抱え込まない選択肢
夜泣き対策は、一人で抱え込まずに周囲のサポートを活用することが重要です。
まずは動物病院に相談しましょう。獣医師は医学的な観点から夜泣きの原因を特定し、適切な治療や対策を提案できます。また、行動的な問題が大きい場合は、ドッグトレーナーや動物行動学の専門家に相談することも有効です。プロの視点から、具体的なトレーニング方法や環境改善のアドバイスを受けることができます。
家族で役割分担をすることも大切です。毎晩一人だけが夜泣き対応をしていると、その人だけが疲弊してしまいます。夜間の対応を家族で交代制にする、週末だけ他の家族に任せるなど、負担を分散する工夫をしましょう。
ペットシッターやペットホテルの利用も選択肢の一つです。どうしても疲労が限界に達している場合は、一時的に愛犬を預けて、飼い主様自身が十分な休息を取ることも必要です。心身ともにリフレッシュすることで、再び前向きに夜泣き対策に取り組むことができます。
同じ悩みを持つ飼い主様同士の情報交換も励みになります。SNSやペット関連のコミュニティで、経験談やアドバイスを共有することで、「自分だけではない」という安心感を得られることもあります。
動物病院で相談してほしいタイミングと流れ

すぐ受診すべきケース
以下のような状況では、できるだけ早く動物病院を受診してください。
夜泣きが突然始まった場合、特にそれまで全く夜泣きをしなかった犬が急に鳴くようになった場合は、何らかの病気や痛みが発生した可能性があります。呼吸異常が見られる場合も緊急性が高い状況です。呼吸が速い、荒い、苦しそうにしている、咳が止まらないといった症状は、心臓病や呼吸器疾患のサインかもしれません。
明らかに痛みがある様子が見られる場合も、すぐに受診が必要です。特定の部位を触ると嫌がる、歩き方がおかしい、体を丸めている、震えているといった様子が見られたら、放置せずに診察を受けましょう。
老犬で認知機能の低下が疑われる場合も、早めの受診が推奨されます。徘徊、方向感覚の喪失、飼い主の認識低下といった症状が見られたら、認知機能不全症候群の可能性があります。早期に診断して適切なケアを始めることで、症状の進行を遅らせることができます。
夜泣き相談でできること
動物病院での夜泣き相談では、まず詳しい問診を行います。夜泣きが始まった時期、頻度、持続時間、鳴き方の特徴、生活環境の変化、他の症状の有無などを詳しくお聞きします。この情報が診断の重要な手がかりとなるため、できるだけ具体的にお伝えください。
次に身体検査を行い、全身の健康状態をチェックします。痛みのある部位がないか、心音や呼吸音に異常がないか、関節の動きに問題がないかなどを確認します。必要に応じて、血液検査やレントゲン検査などの追加検査を提案することもあります。
診察結果に基づいて、行動面や生活面での具体的な指導を行います。睡眠環境の整え方、運動量の調整、食事のタイミング、就寝前のルーティンなど、家庭でできる対策を詳しくご説明します。
病気が原因である場合は、適切な治療を開始します。また、薬物療法やサプリメントが必要と判断される場合は、それぞれの犬に合わせた処方を行います。必要に応じて、ドッグトレーナーなど他の専門家への紹介も行います。
オダガワ動物病院での夜泣き診療フロー
オダガワ動物病院では、夜泣きに悩む飼い主様のために、丁寧で包括的な診療を提供しています。
まずはお電話またはウェブサイトからご予約ください。初診の場合は、問診にしっかりと時間を取りたいため、事前予約をお勧めしています。予約時に「夜泣きの相談」とお伝えいただければ、適切な診察時間を確保いたします。
初診時には、以下のものをご持参いただくと診察がスムーズです。可能であれば、夜泣きの様子を撮影した動画をスマートフォンなどでお持ちください。実際の鳴き方や行動を見ることで、診断の精度が高まります。また、夜間の行動を記録したメモ(何時に鳴いたか、どのくらい続いたか、他にどんな行動が見られたかなど)もお持ちいただけると助かります。
これまでの健康診断の結果や、他院で処方されている薬がある場合は、その情報もお知らせください。また、普段のフードやおやつ、生活リズム、散歩の頻度なども問診でお聞きしますので、あらかじめ整理しておいていただけるとスムーズです。
診察では、飼い主様のお話をじっくりとお聞きし、愛犬の身体状態を丁寧にチェックします。必要な検査をご提案し、結果に基づいて最適な治療方針を一緒に考えていきます。夜泣き対策は一度の診察で完結するものではなく、継続的なフォローアップが重要です。経過を見ながら、必要に応じて対策を調整していきますので、安心してご相談ください。
まとめ

犬の夜泣きは、飼い主様にとっても愛犬にとってもつらい問題ですが、決して「がまんするしかない」ものではありません。夜泣きには必ず原因があり、その原因を正しく把握すれば、多くのケースで改善することができます。
環境や生活習慣の見直しで解決できることもあれば、病気の治療が必要なこともあります。分離不安や認知機能の低下には、専門的なサポートが役立ちます。大切なのは、夜泣きを単なる「困った行動」として片付けるのではなく、愛犬からの大切なメッセージとして受け止めることです。
夜泣きが続いている場合、特に他の症状を伴っている場合は、小さな変化でも遠慮なく動物病院にご相談ください。早期に適切な対応をすることで、愛犬の苦痛を和らげ、飼い主様の生活の質も守ることができます。
オダガワ動物病院では、夜泣きに関するご相談を丁寧にお受けしています。医学的な検査と診断はもちろん、生活環境の改善や行動修正についても具体的なアドバイスを提供いたします。一人で悩まず、ぜひ私たちにお手伝いをさせてください。
愛犬が安心して眠れる環境をつくり、飼い主様も穏やかな夜を過ごせるよう、全力でサポートいたします。夜泣きでお困りの際は、お気軽に当院までお問い合わせください。










