
いつものように散歩に出かけようとしたとき、愛犬が階段の前で立ち止まってしまう。ソファに飛び乗ろうとして躊躇する。後ろ足が少しふらついているような気がする…
こうした小さな変化は、飼い主だからこそ気づける大切なサインです。犬は痛みを我慢する動物ですから、明らかな症状が出たときには、すでにかなり進行していることも少なくありません。
犬の足腰トラブルの代表格が「椎間板ヘルニア」と「関節炎」です。どちらも放置すれば歩行困難に至る可能性がある一方で、早期に発見して適切なケアを行えば、愛犬の生活の質を大きく改善できる病気でもあります。
オダガワ動物病院では、これまで数多くのヘルニアや関節炎の症例に向き合ってきました。その臨床経験をもとに、この記事では両疾患の違いから診断、治療、そして自宅でできる予防法まで、飼い主の皆様が知っておくべき情報を詳しく解説していきます。
愛犬の健やかな歩みを守るために、ぜひ最後までお読みください。
犬の足腰の痛み|ヘルニアと関節炎の違いを理解する

愛犬が足を引きずったり、歩き方がおかしかったりすると、多くの飼い主は「どこか痛いのだろうか」と心配になります。しかし、足腰のトラブルにもさまざまな原因があり、それぞれ対処法が異なります。ここでは特に多い「椎間板ヘルニア」と「関節炎」について、その違いを詳しく見ていきましょう。
椎間板ヘルニアとは何か
椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間でクッションの役割を果たしている「椎間板」が変性し、飛び出してしまう病気です。飛び出した椎間板が脊髄や神経を圧迫することで、激しい痛みや麻痺が生じます。
犬の椎間板ヘルニアは発生部位によって頸部、胸腰部、腰仙部に分類されますが、最も多いのは胸腰部です。症状の程度は軽度から重度までさまざまで、軽ければ歩行はできるものの痛みで動きたがらない状態から、重度になると完全に後肢が麻痺して排尿排便もコントロールできなくなることがあります。
特にダックスフンド、ビーグル、コーギーといった胴長短足の犬種は、遺伝的に椎間板が変性しやすい体質を持っており、若齢でも発症するリスクが高いことが知られています。ペキニーズやシーズーなどの小型犬種も注意が必要です。
関節炎とは何か
一方、関節炎は関節の軟骨がすり減ったり、関節包に炎症が起きたりすることで痛みや可動域の制限が生じる病気です。正式には「変形性関節症」とも呼ばれ、慢性的に進行していくのが特徴です。
関節炎の主な原因は加齢です。年を重ねるにつれて関節の軟骨は徐々に摩耗し、クッション機能が低下します。また、肥満も大きなリスク要因です。過剰な体重が関節に負担をかけ続けることで、軟骨の劣化が加速します。
さらに、若い頃の骨折や靭帯損傷といった外傷、股関節形成不全や膝蓋骨脱臼といった先天的な関節の異常も、後に関節炎を引き起こす原因となります。大型犬では股関節や肘関節、小型犬では膝関節に発症しやすい傾向があります。
ヘルニアと関節炎の見分け方
両者は原因も発症メカニズムも異なりますが、飼い主から見ると「足腰が痛そう」という点では共通しているため、区別が難しいことがあります。しかし、注意深く観察すると、いくつかの違いが見えてきます。
発症の仕方が一つの手がかりです。ヘルニアは比較的急激に症状が現れることが多く、「昨日まで元気だったのに、今朝突然歩けなくなった」というケースも珍しくありません。一方、関節炎は徐々に進行するため、「最近なんとなく動きが鈍くなってきた」「朝起きたときに硬い感じがする」といった、じわじわとした変化が特徴です。
痛みの場所も異なります。ヘルニアは背骨の神経が圧迫されることで起こるため、背中を触ると痛がったり、背中を丸めた姿勢をとったりします。足に力が入らない、引きずる、完全に動かせないといった神経症状が出ることもあります。関節炎は特定の関節に痛みがあるため、その関節を曲げ伸ばしするときや、体重をかけるときに痛みを示します。
症状の左右差も参考になります。ヘルニアは背骨の中央にある神経を圧迫するため、多くの場合、両後肢に同時に症状が出ます。ただし、圧迫の程度によっては片側だけのこともあります。関節炎は通常、一つまたは複数の関節に限定されるため、片側だけ足を引きずる、特定の足をかばうといった様子が見られます。
下の表に、両者の違いをまとめました。
| 項目 | 椎間板ヘルニア | 関節炎 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 椎間板の変性・突出 | 加齢、肥満、外傷、先天異常 |
| 発症の速さ | 急性(突然発症することが多い) | 慢性(徐々に進行) |
| 主な症状 | 背中の痛み、足の麻痺、排尿障害 | 歩行時の痛み、関節のこわばり、動きの鈍さ |
| 好発犬種 | ダックスフンド、ビーグル、コーギー | 大型犬全般、肥満犬、高齢犬 |
| 痛みの部位 | 背骨に沿った部分 | 特定の関節(股関節、膝、肘など) |
ただし、これらはあくまで一般的な傾向です。実際には両方の病気を併発していることもありますし、見た目の症状だけでは判断が難しいケースも多々あります。だからこそ、専門的な検査による正確な診断が重要なのです。
見逃さないで!ヘルニアと関節炎に共通する初期サイン

ヘルニアと関節炎は異なる病気ですが、足腰のトラブルという点では共通しており、初期に現れるサインにも重なる部分があります。これらのサインを早期に発見できるかどうかが、その後の治療成績を大きく左右します。
歩き方がぎこちなくなる
最も分かりやすいサインの一つが、歩き方の変化です。普段と比べて足の運びがぎこちない、歩幅が小さくなった、後ろ足がふらついているように見える。こうした微妙な変化に気づいたら、注意が必要です。
犬は本能的に弱みを見せない動物ですから、明らかに足を引きずるようになったときには、すでにかなりの痛みを我慢している可能性があります。「いつもと少し違うかな」という程度の変化でも、見過ごさないことが大切です。
段差や階段を避けるようになる
以前は何のためらいもなく飛び乗っていたソファやベッドを嫌がる、階段の前で立ち止まって躊躇する、車への乗り降りを嫌がる。これらは痛みや不安定さを感じているサインです。
特に、階段を上るときよりも下りるときに嫌がる場合は要注意です。下り階段では前肢に体重がかかり、関節や背骨への負担が大きくなるため、痛みを感じやすいのです。
起き上がりに時間がかかる
寝ている状態から立ち上がるとき、以前よりも時間がかかるようになった、何度か体勢を変えてからようやく立つ、立ち上がった直後はぎこちない動きをする。これらも重要なサインです。
特に朝起きたときや、長時間休んだ後に症状が顕著な場合は、関節炎の可能性が高いと考えられます。関節が硬くなっているため、動き始めに痛みや違和感が強く出るのです。一方、ヘルニアでは時間帯に関係なく症状が持続します。
姿勢の変化
背中を丸めた姿勢をとる、お腹を地面につけたままで立とうとしない、座るときの姿勢が左右非対称など、こうした姿勢の異常も見逃せません。
特にヘルニアの場合、痛みを和らげるために背中を丸めた「祈りのポーズ」をとることがあります。また、背中や腰を触られるのを嫌がる、触ると「キャン」と鳴くといった反応も、神経が圧迫されている可能性を示唆します。
活動性の低下
散歩に行きたがらない、遊びに誘っても反応が鈍い、一日中寝ていることが増えた。
こうした活動性の低下も、痛みのサインかもしれません。
犬は痛みを直接訴えることができないため、動かないことで痛みを避けようとします。「最近おとなしくなった」「年を取って落ち着いてきた」と思っていたら、実は痛みで動けなかったというケースも少なくありません。
鳴き声や呼吸の変化
普段は鳴かない犬が突然鳴き出す、特定の動作をするときだけ「キャン」と鳴く、触られるのを嫌がって唸る
これらは痛みを訴えているサインです。
また、浅く速い呼吸が続く場合も、痛みによるストレスを感じている可能性があります。安静時でも呼吸が荒い、パンティングが止まらないといった様子が見られたら、すぐに受診を検討してください。
早期発見が予後を左右する
これらのサインの中には、「もしかしたら気のせいかも」「年だから仕方ない」と見過ごしてしまいがちなものもあります。しかし、どちらの病気も早期に発見して治療を始めるほど、回復率が高く、治療期間も短くなります。
特にヘルニアの場合、神経の圧迫が長時間続くと、神経細胞が壊死してしまい、治療を行っても回復しない永久的な麻痺が残ることがあります。発症から48時間以内に治療を開始できるかどうかが、予後を大きく左右するのです。
関節炎も、早期から適切な管理を行えば、進行を遅らせ、痛みをコントロールして快適な生活を長く維持することができます。軟骨の損傷が進んでしまってからでは、できることが限られてしまいます。
「様子を見る」という選択が、取り返しのつかない結果につながることもあります。少しでも気になる変化があれば、早めに動物病院に相談することをお勧めします。
正確な診断への道|検査の流れと診断のポイント

愛犬に足腰のトラブルが疑われるとき、動物病院ではどのような検査を行い、どのように診断していくのでしょうか。正確な診断は適切な治療の第一歩です。ここでは、診察から検査、診断に至るプロセスを詳しく解説します。
問診と身体検査の重要性
診断の出発点は、飼い主からの詳しい問診と、獣医師による丁寧な身体検査です。この段階で得られる情報が、その後の検査方針を決める上で非常に重要になります。
問診では、症状がいつから始まったか、どのように進行しているか、どんなときに痛がるか、食欲や排泄に変化はないかといった情報を詳しくお聞きします。また、犬種、年齢、体重の変化、過去の病歴や外傷の有無なども重要な手がかりとなります。
身体検査では、歩き方の観察から始まり、立っている姿勢、背骨や関節を触った時の反応、各関節の可動域、筋肉の張りや萎縮の有無などを細かくチェックします。神経学的検査も行い、反射の異常や感覚の低下がないかを確認します。
飼い主の方には、可能であれば自宅での愛犬の様子を動画で撮影して持参していただくことをお勧めします。診察室では緊張して普段と違う動きをすることもあるため、自宅でのリラックスした状態での歩き方を見ることが、診断の精度を高めることにつながります。
ヘルニアの診断に必要な検査
椎間板ヘルニアが疑われる場合、最初に行われるのがレントゲン検査です。レントゲンでは椎間板自体は写りませんが、椎間板が変性している場合、椎間板の高さが狭くなっていたり、石灰化が見られたりすることがあります。また、骨折や腫瘍など、他の病気を除外するためにも有用です。
しかし、レントゲンだけでは神経の圧迫の程度や、椎間板がどの程度飛び出しているかを正確に評価することはできません。そこで、より詳しい情報が必要な場合には、CTやMRIといった高度な画像検査が推奨されます。
CT検査は骨の構造を立体的に評価するのに優れており、椎間板の石灰化や骨の変形を詳細に観察できます。MRI検査は軟部組織のコントラストが高いため、椎間板や脊髄、神経根の状態を直接観察できる最も優れた検査法です。特に手術を検討する場合には、MRIによる正確な診断が不可欠です。
神経学的検査も重要です。後肢の反射、痛覚の有無、排尿機能のチェックなどを通じて、神経障害の程度を5段階のグレードで評価します。この評価は治療方針の決定や予後の予測に役立ちます。
関節炎の診断プロセス
関節炎の診断では、まず触診による関節の評価が基本となります。関節を動かしたときのきしみ音(クレピタス)、関節の腫れや熱感、可動域の制限、関節を動かしたときの痛みの反応などをチェックします。
レントゲン検査では、関節の隙間が狭くなっている、骨が変形している、骨棘(骨のとげ)ができているといった変形性関節症に特徴的な変化を確認します。ただし、レントゲンで変化が見られる頃には、すでにかなり進行していることが多いため、早期の軽度な関節炎はレントゲンでは捉えられないこともあります。
血液検査は、関節炎そのものの診断というよりも、全身状態の評価や、炎症の程度を示すマーカーのチェック、治療薬を使用する際の安全性の確認などに用いられます。
より詳しい評価が必要な場合には、関節液の採取と分析を行うこともあります。関節液を調べることで、炎症の種類や程度、感染や免疫疾患の有無などが分かります。
CT検査やMRI検査は、通常のレントゲンでは見えない軟骨の状態や、靭帯の損傷、関節内の異常を評価するのに有用です。特に股関節形成不全や膝蓋骨脱臼といった構造的な問題を伴う場合、立体的な評価が治療方針の決定に役立ちます。
診断精度を高めるためのポイント
正確な診断のためには、獣医師の技術と経験だけでなく、飼い主からの情報も重要な役割を果たします。診察前に、以下のような点を整理しておくと、診断がスムーズに進みます。
症状の記録:いつから、どんな症状が、どのように変化してきたかをメモしておく。可能であれば日付とともに記録する。
動画の撮影:自宅での歩き方、立ち上がり方、階段の上り下りなど、気になる動作を動画で記録する。
痛がる場所の特定:どこを触ると痛がるか、どんな動作で痛みを示すかを観察する。
生活環境の変化:最近、引っ越しをした、新しいペットが増えた、フローリングに変えたなど、環境の変化があれば伝える。
既往歴や家族歴:過去の病気、けが、家族(親や兄弟)に同じような病気がなかったかなど。
これらの情報は、症状が似ている複数の病気を鑑別する上で、大きな手がかりとなります。
また、セカンドオピニオンを求めることも、決して悪いことではありません。特に手術が必要と言われた場合や、診断に不安がある場合には、他の獣医師の意見を聞くことで、より納得のいく治療選択ができることもあります。
治療の選択肢|保存療法から外科治療まで

ヘルニアや関節炎と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。治療法は症状の重症度や進行度、犬の年齢や全身状態、飼い主の希望などを総合的に考慮して決定されます。ここでは、主な治療法とその選択基準について解説します。
保存療法(内科的治療)の基本
症状が軽度から中等度の場合、あるいは全身麻酔のリスクが高い場合には、まず保存療法が選択されます。保存療法の目的は、痛みと炎症をコントロールし、さらなる悪化を防ぎながら、可能な限り自然な回復を促すことです。
安静管理は保存療法の基本中の基本です。特にヘルニアの急性期には、ケージレストと呼ばれる厳格な安静が必要になります。これは、犬をクレートやケージの中で過ごさせ、散歩や運動を制限することで、脊髄への負担を最小限にするものです。期間は症状の程度によりますが、通常は2週間から4週間程度です。
安静中も、排尿排便のための最小限の移動は必要ですが、走る、飛ぶ、階段の上り下りといった脊椎に負担をかける動作は厳禁です。飼い主にとっては「可哀想」と感じられるかもしれませんが、この時期の無理な動きが症状を悪化させ、手術が必要になることもあるため、徹底することが重要です。
薬物療法では、主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。これらは痛みと炎症の両方を抑える効果があります。犬用に開発された安全性の高い薬剤がいくつかあり、症状や副作用のリスクに応じて選択されます。
ステロイド薬は強力な抗炎症作用がありますが、長期使用には副作用のリスクがあるため、短期間の使用に限定されるか、他の薬剤が使えない場合の選択肢となります。
ヘルニアの場合には、神経保護作用のあるビタミンB群や、血流を改善する薬剤が併用されることもあります。関節炎では、関節の健康をサポートするサプリメント(後述)が補助的に用いられます。
筋弛緩薬や鎮痛薬も、症状に応じて使用されます。特に痛みが強い場合には、より強力な鎮痛薬を短期間使用することで、快適さを保ちながら治療を進めることができます。
体重管理は、両疾患において極めて重要です。過剰な体重は関節への負担を増やし、関節炎を悪化させます。また、肥満は脊椎への負荷も増やすため、ヘルニアの再発リスクも高めます。
理想体重よりも重い場合には、獣医師の指導のもとで計画的な減量プログラムを実施します。急激な減量は健康に害を及ぼすため、通常は数ヶ月かけて徐々に体重を落としていきます。
物理療法は、近年、獣医療でも注目されている治療法です。レーザー治療は炎症を抑え、痛みを軽減し、組織の治癒を促進する効果があります。温熱療法は血流を改善し、筋肉の緊張を和らげます。これらは薬物療法と併用することで、より効果的な疼痛管理が可能になります。
外科治療が必要なケース
保存療法で改善が見られない場合、症状が重度の場合、あるいは再発を繰り返す場合には、外科治療が検討されます。
ヘルニアの手術は、脊髄を圧迫している椎間板物質を取り除き、神経への圧迫を解除することが目的です。代表的な術式としては、椎弓切除術、片側椎弓切除術、背側椎間板切除術などがあり、ヘルニアの部位や程度に応じて選択されます。
手術のタイミングは予後に大きく影響します。特に、完全麻痺に陥ってから48時間以内に手術を行えるかどうかが、回復の可否を左右する重要な要素となります。深部痛覚(最も深い感覚)が消失している場合、時間との勝負になります。
手術の成功率は、症状の重症度によって異なります。軽度から中等度の症例では90%以上が改善しますが、重度の麻痺や深部痛覚消失がある場合、回復率は50〜60%程度に下がります。それでも、適切なタイミングでの手術は、歩行機能を取り戻す可能性を与えてくれます。
関節疾患の手術は、原因や関節の状態によって様々です。股関節形成不全では、若い犬には骨切り術、成犬には全股関節置換術が選択されることがあります。膝蓋骨脱臼では、骨や軟部組織を調整して膝蓋骨を正常な位置に戻す手術が行われます。
前十字靭帯断裂は、活動的な犬によく見られる膝関節の損傷で、放置すると重度の関節炎に進行します。この場合、靭帯を再建する手術や、膝関節の力学を変える手術(TPLO、TTAなど)が行われます。
変形性関節症が進行した場合には、関節洗浄や、場合によっては人工関節置換術が選択肢となることもあります。
リハビリの重要性
手術後、あるいは保存療法中においても、リハビリテーションは非常に重要な役割を果たします。適切なリハビリは回復を早め、筋肉の萎縮を防ぎ、関節の可動域を維持し、再発のリスクを下げます。
術後のリハビリは、通常、手術の翌日から始まります。最初は受動的な関節運動(獣医師や飼い主が優しく関節を動かす)から始め、徐々に自発的な運動へと移行していきます。
水中トレッドミルやバランスボールを使った運動療法、電気刺激による筋肉の活性化、マッサージなど、様々な手法があります。これらは専門のリハビリ施設で行われることもあれば、自宅で飼い主が行えるようトレーニングを受けることもあります。
リハビリの効果は、継続することで初めて現れます。手術直後は劇的な回復が見られないこともありますが、数週間から数ヶ月かけて徐々に機能が戻ってくることも珍しくありません。諦めずに続けることが、愛犬の回復への道を開きます。
自宅でできるケアと環境づくり

動物病院での治療と並行して、自宅でのケアも回復と再発予防に大きく貢献します。ここでは、飼い主ができる具体的なケア方法と、愛犬にとって安全で快適な生活環境の整え方を紹介します。
生活環境の見直しと改善
足腰に問題を抱える犬にとって、家の中の環境は大きな意味を持ちます。ちょっとした工夫で、痛みを軽減し、安全性を高めることができます。
床材の対策は最優先事項です。フローリングは犬にとって非常に滑りやすく、関節や背骨に大きな負担をかけます。滑ることで関節が不自然な方向に曲がったり、踏ん張るために余計な力が必要になったりするため、症状を悪化させる原因になります。
理想的なのは、犬が主に過ごすエリア全体にカーペットやラグを敷くことです。洗濯可能なタイルカーペットなら、汚れても部分的に洗えて便利です。滑り止めマットやヨガマットも効果的です。予算が限られている場合は、犬の動線(寝床からトイレ、食事場所への経路)だけでも滑り止め対策をしましょう。
段差の解消とスロープの設置も重要です。ソファやベッドへの上り下りは、背骨と関節に大きな負荷をかけます。ペット用のスロープやステップを設置することで、負担を大幅に軽減できます。
スロープの角度は緩やかなほど良く、理想的には20度以下です。表面は滑りにくい素材を選び、両側に落下防止のガードがあるとより安全です。階段にもスロープを設置できれば理想的ですが、難しい場合は階段の上下にゲートを設置して、勝手に上り下りできないようにします。
安静用スペースの確保も大切です。治療中、特に安静が必要な時期には、適切なサイズのクレートやケージが必要になります。サイズは、犬が立ち上がり、方向転換でき、横になって伸びられる程度が適切です。狭すぎるとストレスになりますが、広すぎると動き回ってしまうため、安静の目的が果たせません。
クレート内には柔らかすぎないベッド(低反発素材は体が沈みすぎるため避ける)と水入れを設置します。クレートは家族の気配を感じられる場所に置き、孤独感を軽減します。
トイレ環境の調整も忘れてはいけません。足腰が弱っていると、トイレに行くのが億劫になり、我慢してしまうことがあります。トイレは寝床の近くに設置し、段差をなくします。大型犬で屋外排泄が基本の場合は、庭に近い出口までの動線を整え、庭にもスロープを設置するなどの配慮が必要です。
温熱ケアと冷却療法
温度による治療は、自宅でも安全に行える効果的な方法です。ただし、使い分けが重要です。
急性期の冷却は、ケガをした直後や炎症が強い時期に有効です。腫れや熱感がある関節、急激に悪化したヘルニアの初期などには、冷やすことで炎症と痛みを抑えることができます。
冷却には、保冷剤をタオルで包んだものや、冷やしたタオルを使います。直接肌に当てると凍傷の危険があるため、必ず布で包みます。一回の冷却時間は15〜20分程度、1日に数回繰り返します。
慢性期の温熱療法は、慢性的な関節炎や、ヘルニアの亜急性期から慢性期に適しています。温めることで血流が改善され、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されます。
温熱療法には、ペット用の温湿布、温熱ジェル、ホットパックなどを使用します。ここで絶対に注意してほしいのが、人間用の湿布や温熱パッチは使わないということです。人間用の製品には犬にとって有毒な成分(サリチル酸メチルなど)が含まれていることが多く、経皮吸収や舐めることで中毒を起こす危険があります。
ペット用の製品を使うか、単純に温めたタオルを使うのが安全です。温度は人の手で触って「温かくて気持ちいい」程度、40度前後が適温です。熱すぎると火傷の危険があります。一回15〜20分程度、1日2〜3回行うのが目安です。
温熱療法を行う際は、犬が嫌がらないか、皮膚に異常が出ないかを常に確認しながら行います。効果的なタイミングは、軽い運動の前(筋肉を柔らかくする)や就寝前(リラックスと疼痛緩和)です。
装着タイプの温熱ケアという選択肢
湿布や温湿布のほかに、近年は装着型の温熱サポート用品も登場しています。
たとえば、[プロアクティブメダリオン(animato)]は、ウインターグリーンオイルやローズマリーエキスなどの天然成分を含む首輪タイプの補助ケアアイテムです。
首まわりをじんわり温めながら、リラックスや血行促進をサポートする目的で開発されています。
日常的に動きが鈍くなったり、寒さでこわばりやすいシニア犬の“おうちケア”としても活用しやすく、外出中や休息中にも負担なく装着できます。
ただし、医療用の湿布とは異なる補助ケア用品のため、皮膚炎や疾患がある場合には使用を控え、必ず獣医師の指導の元着用してください。
※当院でも取り扱いがございますので、気になる方はご相談ください。
サプリメントと食事によるサポート
関節の健康をサポートするサプリメントは、特に関節炎の管理において重要な役割を果たします。即効性はありませんが、長期的に継続することで、関節の状態を改善し、痛みを軽減する効果が期待できます。
グルコサミンとコンドロイチンは、関節軟骨の主要成分であり、軟骨の修復と保護に役立ちます。多くの研究で関節炎への効果が示されており、獣医師も推奨する代表的なサプリメントです。
MSM(メチルスルフォニルメタン)は、天然の硫黄化合物で、抗炎症作用と鎮痛作用があります。グルコサミン、コンドロイチンと組み合わせることで、相乗効果が期待できます。
オメガ3脂肪酸(DHA/EPA)は、魚油に多く含まれる成分で、強力な抗炎症作用があります。関節炎だけでなく、皮膚、心臓、腎臓など全身の健康にも良い影響を与えます。
緑イ貝(グリーンリップドマッセル)は、ニュージーランド産の貝で、グルコサミン、コンドロイチン、オメガ3脂肪酸を自然な形で含んでいます。単独でも、他のサプリメントと併用しても効果的です。
コラーゲンペプチドは、最近注目されている成分で、関節の柔軟性を保ち、軟骨の健康をサポートします。
抗酸化物質(ビタミンE、ビタミンC、セレンなど)は、炎症反応で生じる活性酸素を除去し、関節の損傷を軽減します。
オダガワ動物病院では、症状や犬の状態に応じて、以下のような製品をお勧めしています。
モエギキャップ
緑イ貝と魚油由来のオメガ3脂肪酸を配合し、関節・皮膚・心血管の健康をサポートする犬猫用サプリメント。
K9 FOURFLAX ニュージーランド グリーン・マッスル パウダー(犬猫兼用)
緑イ貝100%粉末で犬・猫どちらも使える、“自然の関節ケア”サプリ。段差を嫌う、後ろ足を気にする、被毛・皮膚が気になるというペットには、FOURFLAX グリーン・マッスル・パウダーがおすすめです。
ムーブマックス(MoveMax)
犬・猫どちらも使える関節ケアサプリ。グルコサミン・MSM・緑イ貝を配合し、“歩き方が気になる”“段差を嫌がる”と感じる子の毎日に、ムーブマックスでサポートを。
サプリメントは、通常、効果が現れるまでに4〜8週間程度かかります。即効性はありませんが、継続することで確実に効果が現れてきますので、根気よく続けることが大切です。
食事療法も関節の健康に貢献します。関節サポート成分を配合した療法食や、抗炎症作用のある成分を強化したフードがあります。また、体重管理用のフードで適正体重を維持することも、関節への負担を減らす上で非常に重要です。
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日常生活での注意点
サプリメントや環境整備だけでなく、日々の生活の中での小さな配慮も、愛犬の快適さを大きく左右します。
気温と湿度の管理:寒さは関節の痛みを増悪させます。冬場は室温を適切に保ち、犬用のベストや温かいベッドを用意しましょう。逆に暑すぎると活動量が減り、筋力低下につながるため、夏場は涼しい環境を保ちます。
爪の手入れ:伸びた爪は歩行バランスを崩し、関節に余計な負担をかけます。定期的に爪を短く保つことで、正しい歩行姿勢を維持できます。
食事と水の容器の高さ:床に直接置いた食器から食べる姿勢は、首や背中に負担をかけます。犬の胸の高さに合わせた食器台を使用することで、食事時の負担を軽減できます。
適度な運動の継続:完全に運動をやめてしまうと、筋力が低下し、かえって関節への負担が増えます。獣医師と相談しながら、症状に応じた適度な運動を継続することが大切です(詳細は次章)。
再発・悪化を防ぐ日常習慣と予防的ケア

治療によって症状が改善しても、それで終わりではありません。ヘルニアも関節炎も、再発したり徐々に悪化したりする可能性があります。日々の生活習慣を見直し、予防的なケアを続けることが、愛犬の健やかな歩みを長く保つ鍵となります。
体重管理の徹底
過剰な体重が関節や背骨に与える影響は、想像以上に大きいものです。犬の体重が理想より10%増えるだけで、関節にかかる負担は大幅に増加します。肥満は関節炎の最大のリスク要因の一つであり、ヘルニアの再発リスクも高めます。
理想体重の判断は、単に体重計の数字だけでなく、ボディコンディションスコア(BCS)という評価方法を用います。これは、肋骨の触れ具合、腰のくびれ、横から見たお腹の吊り上がりなどを総合的に評価するものです。
理想的な体型では、肋骨は脂肪に覆われているものの、優しく触れば容易に感じられる状態です。上から見ると腰にはっきりとしたくびれがあり、横から見るとお腹が吊り上がっています。これより脂肪が多い場合は、減量を検討する必要があります。
減量は急激に行うのではなく、通常は数ヶ月かけて計画的に進めます。目安は週に1〜2%の体重減少です。食事量を減らすだけでなく、低カロリーで満腹感が得られる減量用フードを活用するのも効果的です。
おやつも見直しが必要です。おやつのカロリーは、1日の総カロリー摂取量の10%以内に抑えるのが理想です。人間の食べ物を与えることは避け、どうしても与える場合は野菜(きゅうり、にんじんなど)など低カロリーのものを選びます。
適度な運動とストレッチの重要性
「足腰が悪いなら安静に」と考えがちですが、実は適度な運動は関節や筋肉の健康維持に不可欠です。動かさないでいると筋肉が萎縮し、関節が硬くなり、かえって状態が悪化してしまいます。
重要なのは、「適度」という点です。激しい運動や長時間の運動は避けつつ、関節に負担をかけない方法で定期的に体を動かすことが理想です。
推奨される運動
散歩は最も基本的で効果的な運動です。ただし、硬いアスファルトよりも、土や芝生の上を歩く方が関節への衝撃が少なくて済みます。距離は犬の状態に応じて調整し、一度に長く歩くよりも、短い散歩を1日に数回行う方が負担が少なくなります。
水泳や水中歩行は、関節炎の犬にとって理想的な運動です。水の浮力が体重を支えてくれるため、関節への負担を最小限に抑えながら、筋力を維持できます。プールや水中トレッドミルを備えた施設もあります。
平らな地面でのゆっくりとした歩行も効果的です。急な坂道や階段は避け、平坦なコースを選びます。
避けるべき運動
ジャンプや飛び降り、急激な方向転換を伴う運動(ボール投げでの全力疾走など)は関節と背骨に大きな負担をかけます。ドッグランでの激しい遊びも、症状が安定するまでは控えた方が安全です。
ストレッチの実践
関節の可動域を維持するためのストレッチも有効です。ただし、無理に伸ばしたり、痛がっているのに続けたりするのは逆効果です。獣医師やリハビリの専門家から正しい方法を学び、優しく、ゆっくりと行うことが大切です。
基本的なストレッチとしては、横になっている状態で、各関節(肩、肘、股関節、膝)をゆっくりと曲げ伸ばしする方法があります。一つの関節につき5〜10回、1日2〜3回行うのが目安です。
定期的な健康チェックと早期発見
症状が落ち着いている時期でも、定期的な健康チェックは欠かせません。早期に変化を見つけることで、悪化を防ぐことができます。
自宅でのチェックポイント
・歩き方に変化はないか(毎日観察)
・起き上がりや横になる動作はスムーズか
・段差や階段への反応に変化はないか
・触ったときの反応(痛がる場所はないか)
・筋肉の張りや左右差はないか
・体重の変化(週1回の測定)
これらを定期的にチェックし、気になる変化があれば早めに獣医師に相談します。
動物病院での定期検診:
症状が安定している場合でも、年に1〜2回の定期検診を受けることをお勧めします。獣医師による専門的なチェックで、飼い主が気づかない微妙な変化を発見できることがあります。
高齢犬や、過去に重度の症状があった犬は、より頻繁な検診(3〜6ヶ月ごと)が推奨されます。
生活環境の継続的な改善
一度環境を整えたからといって、それで終わりではありません。犬の状態は変化しますし、新たな問題点が見えてくることもあります。
定期的に家の中を見回し、新たな危険がないか、改善できる点はないかをチェックします。家族が増えた、引っ越しをした、模様替えをしたといった変化があった場合は、特に注意が必要です。
季節の変化にも対応します。冬場は床が冷たくなるため、温かいマットを追加する。夏場は滑りやすい素材のマットを避ける、といった調整が必要です。
心のケアも忘れずに
体のケアと同じくらい大切なのが、心のケアです。痛みや運動制限によって、犬もストレスを感じることがあります。
できなくなったことに焦点を当てるのではなく、できることを楽しむ工夫をします。激しい運動はできなくても、のんびりとした散歩や、知育玩具を使った遊び、マッサージやブラッシングといったスキンシップなど、犬が喜ぶ時間を作ることが大切です。
家族の愛情と適切なケアがあれば、足腰に問題を抱えていても、犬は幸せに暮らすことができます。
飼い主が絶対にやってはいけないNG対応

愛犬を思うあまり、良かれと思って行ったことが、実は症状を悪化させてしまうこともあります。ここでは、足腰のトラブルを抱える犬に対して、絶対に避けるべき対応を解説します。
自己判断での薬の使用
最も危険なNG行為の一つが、人間用の薬を犬に与えることです。
人間用の鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)は、犬にとって非常に有毒です。人間にとっては安全な量でも、犬では重篤な副作用を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。「少しだけなら大丈夫」という考えは絶対に禁物です。
人間用の湿布や外用薬も危険です。前章で触れたように、多くの製品には犬に有毒な成分が含まれています。貼った湿布を犬が剥がして舐めてしまうケースも多く、中毒のリスクが高まります。
以前に処方された薬の流用も避けてください。同じ犬でも、以前と今では状態が違うことがあります。また、他の犬に処方された薬を使うことは、さらに危険です。薬は必ず、その時の状態に合わせて獣医師が処方したものを使用してください。
サプリメントは比較的安全ですが、それでも過剰摂取は問題を起こすことがあります。特に複数のサプリメントを併用する場合は、獣医師に相談してから始めることをお勧めします。
無理なマッサージやストレッチ
マッサージやストレッチは、正しく行えば有効ですが、間違った方法では症状を悪化させてしまいます。
痛がっているのに続けるのは最も危険です。犬が嫌がったり、痛がったりする場合は、すぐに中止してください。無理に続けることで、炎症が悪化したり、さらなる損傷を引き起こしたりする可能性があります。
強すぎる力も問題です。人間へのマッサージの感覚で強く揉んだり、押したりすると、繊細な犬の体には刺激が強すぎます。特に急性期の炎症部位を強く刺激すると、症状が悪化します。
専門知識なしでの関節操作は危険です。関節を無理に動かしたり、ひねったりすることで、靭帯や軟骨を傷つけてしまうことがあります。関節の可動域訓練は、必ず獣医師やリハビリの専門家の指導のもとで行ってください。
もしマッサージやストレッチを自宅で行いたい場合は、まず獣医師や動物理学療法士から正しい方法を学ぶことが不可欠です。
痛みを無視した散歩や運動の強制
「運動が必要」と聞いて、痛がっている犬に無理に散歩をさせるのは逆効果です。
明らかに痛がっているときの散歩強行は、症状を急激に悪化させる可能性があります。特にヘルニアの急性期に無理に歩かせると、神経の圧迫が強まり、麻痺が進行することがあります。
長すぎる散歩も問題です。犬は飼い主についていこうとするため、痛くても我慢して歩き続けてしまうことがあります。帰宅後にぐったりしている、翌日動きたがらないといった様子があれば、散歩が長すぎるサインです。
不適切な地面での運動も避けるべきです。硬いアスファルトや、滑りやすい床での運動は、関節への衝撃を増やします。
運動は確かに重要ですが、「適度な」運動であることが前提です。犬の様子をよく観察し、無理のない範囲で行うことが大切です。疑問があれば、獣医師に適切な運動量や方法を相談してください。
「年だから仕方ない」という放置
高齢犬に足腰のトラブルが出ると、「年だから仕方ない」と諦めてしまう飼い主もいます。しかし、これは大きな間違いです。
確かに加齢は関節炎のリスク要因ですが、「年だから治療しても無駄」ということはありません。適切な治療とケアによって、痛みを軽減し、生活の質を大きく改善できます。
放置すれば症状は進行し、やがて歩けなくなったり、寝たきりになったりします。そうなってからでは、できることが限られてしまいます。
「もう歳だから」ではなく、「歳だからこそ、快適に過ごせるようにサポートしよう」と考えることが、愛犬への真の愛情です。
肥満の放置
「うちの子は食べるのが幸せだから」「可愛くてつい与えてしまう」といった理由で、肥満を放置することも重大なNG行為です。
過剰な体重は、関節と背骨に計り知れない負担をかけます。すでに足腰にトラブルを抱えている犬にとって、肥満は症状を加速度的に悪化させる要因となります。
おやつや人間の食べ物を与えることが愛情表現だと考えている方もいますが、それが愛犬の健康を害しているとしたら、本当の愛情とは言えません。
食べ物以外の方法で愛情を示すこと(遊び、散歩、スキンシップ、声かけ)はたくさんあります。愛犬の健康を第一に考えた愛情表現を心がけてください。
治療の中断と通院の放置
症状が少し良くなったからといって、獣医師の指示なしに治療を中断することも問題です。
薬を勝手にやめてしまうと、症状がぶり返したり、さらに悪化したりすることがあります。特にステロイド薬を急に中止すると、重篤な副作用が出ることもあります。
再診の予約を守らないことも同様です。獣医師は経過を見ながら治療方針を調整しているため、定期的なチェックが欠かせません。
費用や時間の都合で通院が難しい場合は、獣医師に正直に相談してください。治療計画を調整したり、別の選択肢を提案したりできることもあります。
まとめ|早期発見と正しいケアで愛犬の歩行を守る

ここまで、犬のヘルニアと関節炎について、原因から症状、診断、治療、そして予防まで、詳しく解説してきました。最後に、重要なポイントをまとめておきます。
小さな変化を見逃さないこと
愛犬の歩き方がいつもと少し違う、階段を嫌がるようになった、起き上がりに時間がかかる。こうした小さな変化は、足腰のトラブルを知らせる大切なSOSサインです。
犬は痛みを我慢する動物ですから、明らかな症状が出たときには、すでにかなり進行していることも少なくありません。日々の観察を怠らず、「いつもと違う」と感じたら、早めに動物病院を受診することが大切です。
早期治療が予後を左右する
ヘルニアも関節炎も、早期に発見して治療を始めるほど、回復率が高く、治療期間も短くなります。
特にヘルニアでは、神経の圧迫が長時間続くと、永久的な麻痺が残ることがあります。発症から48時間以内の治療開始が理想的です。「様子を見よう」と考えているうちに、取り返しのつかない状態になることもあるのです。
関節炎も、早期から適切な管理を行えば、進行を遅らせ、快適な生活を長く維持できます。「年だから仕方ない」と諦めるのではなく、積極的に治療とケアを行うことが、愛犬の生活の質を守ることにつながります。
治療は多角的アプローチが効果的
足腰のトラブルの治療は、一つの方法だけでなく、複数のアプローチを組み合わせることで、最大の効果が得られます。
薬物療法、体重管理、環境整備、リハビリテーション、サプリメント、適度な運動、これらを総合的に実施することで、症状の改善と再発予防を実現できます。
どれか一つだけを頑張るのではなく、それぞれをバランスよく継続することが成功の鍵です。
自宅でのケアが回復と予防の要
動物病院での治療と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが、自宅でのケアです。
滑らない床、段差のない環境、適切な体重、無理のない運動、サプリメントの継続、温熱ケア、これらの日々の積み重ねが、愛犬の足腰を守ります。
特に体重管理は、すべての基本です。適正体重を維持することで、関節への負担を大幅に減らし、症状の改善と予防につながります。
飼い主の知識と行動が愛犬を救う
この記事を最後まで読んでくださった皆様は、すでに愛犬のために正しい知識を得ようとする、素晴らしい飼い主です。
知識を持つことで、早期発見ができ、適切な治療を選択でき、自宅でも効果的なケアができるようになります。そして何より、「これで良いのだろうか」という不安から解放され、自信を持って愛犬をサポートできるようになります。
一方で、間違った情報や思い込みに基づく対応は、症状を悪化させることもあります。人間用の薬を与える、無理なマッサージをする、痛みを無視して運動を強制する。こうしたNG行為を避けることも、知識があってこそです。
迷ったら専門家に相談を
どれだけ知識を持っていても、実際に愛犬に症状が出ると、不安になったり、判断に迷ったりすることもあるでしょう。そんなときは、一人で抱え込まず、動物病院に相談してください。
「こんなことで相談していいのかな」「まだ様子を見た方がいいかな」と躊躇する必要はありません。早すぎる相談はあっても、遅すぎる相談で後悔することはあります。
獣医師は、愛犬の健康を守るためのパートナーです。疑問や不安があれば、いつでも気軽に相談してください。
愛犬との時間を大切に
足腰にトラブルを抱えていても、適切なケアがあれば、犬は幸せに暮らすことができます。以前のように走り回ることはできなくても、のんびりとした散歩を楽しんだり、家族との時間を過ごしたりすることはできます。
大切なのは、「できなくなったこと」ではなく、「まだできること」「これからもできること」に目を向けることです。
愛犬が痛みなく、快適に、そして幸せに過ごせるよう、飼い主として最善のサポートをすること。それが、私たちにできる最高の愛情表現です。
オダガワ動物病院からのメッセージ
オダガワ動物病院は、犬のヘルニア、関節炎、そして様々な神経疾患や整形外科疾患に対応しています。
専門的な検査と診断、個々の犬に合わせた治療計画、リハビリテーション指導、そして長期的なフォローアップを通じて、愛犬の歩行を支え、生活の質を守ることをお約束します。
地域の皆様のかかりつけ医として、愛犬の一生に寄り添い、健康で幸せな日々をサポートすることが、私たちの使命です。
足腰のトラブルでお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。飼い主様と愛犬、そして私たちが一つのチームとなって、最良の結果を目指していきましょう。

よくある質問(FAQ)

最後に、飼い主の皆様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1: ヘルニアは手術しないと治らないのですか?
A: いいえ、すべてのヘルニアが手術を必要とするわけではありません。軽度から中等度の症例では、安静と薬物療法などの保存療法で改善することも多くあります。ただし、重度の麻痺がある場合や、保存療法で改善が見られない場合は、手術が推奨されます。
Q2: 関節炎は完治しますか?
A: 残念ながら、変形性関節症は進行性の疾患であり、完全に元の状態に戻すことは困難です。しかし、適切な治療とケアによって、進行を遅らせ、痛みをコントロールし、快適な生活を長く維持することは十分に可能です。
Q3: サプリメントはどのくらいで効果が出ますか?
A: 関節サプリメントの効果は通常、4〜8週間程度の継続使用で現れ始めます。即効性はありませんが、長期的に継続することで、関節の健康維持に役立ちます。途中でやめてしまわず、根気よく続けることが大切です。
Q4: 散歩はどのくらいの時間が適切ですか?
A: 犬の状態によって大きく異なります。一般的には、長い散歩を1回よりも、短い散歩を数回に分ける方が関節への負担が少なくなります。獣医師と相談しながら、愛犬の様子を見て調整してください。帰宅後にぐったりしていたり、翌日動きたがらなかったりする場合は、散歩が長すぎるサインです。
Q5: 階段を使わせないようにすべきですか?
A: 症状がある場合は、可能な限り階段の使用を避けることをお勧めします。特に急性期や症状が重い場合は、階段の上下を完全に制限すべきです。症状が安定している場合でも、頻繁な階段の使用は避け、必要に応じてスロープを設置するなどの工夫が望ましいでしょう。
Q6: 保険は適用されますか?
A: ペット保険に加入している場合、ヘルニアや関節炎の治療は補償の対象となることが多いです。ただし、加入前から存在していた疾患は補償対象外となる場合があります。詳細は加入している保険会社にご確認ください。
Q7: セカンドオピニオンを求めても良いですか?
A: もちろんです。特に手術を勧められた場合や、診断や治療方針に不安がある場合は、他の獣医師の意見を聞くことは良い選択です。セカンドオピニオンを求めることは、愛犬のために最善の判断をするための正当な権利です。
Q8: リハビリはいつから始めるべきですか?
A: 手術後のリハビリは、通常、手術翌日から始まります。保存療法の場合も、急性期を過ぎたらできるだけ早くリハビリを開始することで、筋力低下を防ぎ、回復を促進できます。具体的なタイミングと方法は、獣医師の指示に従ってください。
Q9: 犬用車椅子は有効ですか?
A: 後肢が完全に麻痺してしまった場合や、重度の関節炎で歩行が困難な場合、犬用車椅子は有効な選択肢となります。車椅子を使うことで、運動不足の解消、筋力維持、精神的な刺激など、多くのメリットが得られます。ただし、すべての犬に適しているわけではないので、獣医師と相談して決めることをお勧めします。
Q10: 予防のために若いうちからできることはありますか?
A: はい、予防は早いうちから始めることが理想的です。適正体重の維持、適度な運動、滑らない床材の使用、無理な動き(高い場所からの飛び降りなど)を避ける、関節サポートサプリメントの早期導入などが効果的です。特に好発犬種の場合は、若いうちからの予防的ケアが重要です。









