
結論から言うと、犬の涙やけの多くは体質によるものですが、片目だけひどい・急に悪化した・目を痛がる場合は病気の可能性があります。
自宅ケアで様子を見てよいケースと、動物病院を受診すべきケースを正しく見極めることが大切です。
「毎日きちんと拭いているのに、うちの子の涙やけがまったく良くならない…」そんな悩みを抱えている飼い主さんは少なくありません。目の下が赤茶色や黒っぽく変色してしまう涙やけは、見た目の問題だけでなく、愛犬の健康状態を知らせるサインである可能性もあります。
「これって病気なの?それとも体質的なもの?」「病院に連れて行くべきか、自宅ケアで様子を見るべきか」と判断に迷うこともあるでしょう。実は涙やけの原因は一つではなく、犬種特有の体質から病気、食事やアレルギーまで多岐にわたります。
この記事では、涙やけが起こる仕組みから原因別の対処法、自宅でできるケア方法、そして動物病院を受診すべきタイミングまで、獣医療の観点から詳しく解説します。あなたの愛犬に合った改善方法を見つけるための情報をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。
犬の涙やけとは?原因と起こる仕組み

涙やけは単なる「汚れ」ではなく、涙が過剰に分泌されたり、正常に排出されなかったりすることで起こる症状です。まずは涙やけの基本的なメカニズムを理解しておきましょう。
涙やけの基本的な仕組み
犬の目は人間と同じように、常に涙によって保護されています。涙には目の表面を潤して乾燥を防ぎ、ゴミや細菌を洗い流す重要な役割があります。健康な犬の場合、分泌された涙は目頭にある小さな穴から鼻涙管という管を通り、鼻の奥へと排出される仕組みになっています。
ところが何らかの理由でこのバランスが崩れると、涙が目から溢れ出してしまいます。これが「流涙症」と呼ばれる状態で、涙やけの直接的な原因となります。涙が常に目の周りの被毛を濡らし続けることで、細菌や酵母菌が繁殖しやすい環境が作られ、時間とともに変色していくのです。
正常な涙の流れでは目の表面は適度に潤っていますが、溢れ出る涙は明らかに量が多く、目の下がいつも湿っている状態になります。この違いを見極めることが、涙やけ対策の第一歩となります。
なぜ赤茶色・黒くなるのか
涙やけの特徴的な赤茶色や黒っぽい変色には、科学的な理由があります。その主な原因となるのが「ポルフィリン」という色素です。
ポルフィリンは赤血球が分解される過程で生成される物質で、涙や唾液、尿などに含まれています。涙に含まれるポルフィリンが被毛に付着し、空気に触れて酸化することで、あの独特な赤茶色の変色が起こります。特に白や淡色の被毛を持つ犬では、この変色が目立ちやすくなります。
さらに問題を複雑にしているのが、湿った環境を好む雑菌や酵母菌の存在です。常に濡れている目の周りの皮膚は、これらの微生物にとって格好の繁殖場所となります。雑菌や酵母菌が増殖すると、変色がより濃くなり、黒ずんで見えることもあります。また皮膚炎を起こして、痒みや臭いといった二次的な問題を引き起こすこともあります。
つまり涙やけの変色は、ポルフィリン色素の沈着と微生物の繁殖という二つの要因が重なって起こる現象なのです。このメカニズムを理解しておくことで、後述する原因別の対策もより効果的に実践できるようになります。
犬の涙やけの主な原因

涙やけの改善には、まず「なぜ涙が溢れているのか」という根本原因を突き止めることが不可欠です。原因によって適切な対処法が異なるため、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
体質・犬種が原因の犬の涙やけ
一部の犬種では、生まれつきの骨格や体の構造上、涙やけが起こりやすい傾向があります。これは病気ではなく、その犬種特有の体質的な問題といえます。
特に短頭種と呼ばれる鼻ペチャの犬種、例えばシーズー、パグ、フレンチブルドッグ、ペキニーズなどは涙やけが非常に多く見られます。これらの犬種は顔の骨格が平坦なため、鼻涙管が通常よりも曲がりくねっていたり、管自体が細かったりすることがあります。その結果、涙の排出がスムーズに行われず、目から溢れやすくなってしまうのです。
また小型犬全般も涙やけになりやすい傾向があります。トイプードル、マルチーズ、チワワ、ポメラニアンといった犬種では、体のサイズに対して目が大きく、鼻涙管が細いことが多いためです。さらに目が大きいとゴミが入りやすく、刺激によって涙の分泌量が増えることも関係しています。
興味深いことに、成長とともに涙やけが自然に改善するケースもあります。子犬の頃は鼻涙管が未発達で細いため涙が溢れやすいのですが、成長に伴って管が太くなり、涙の流れが正常化することがあるのです。ただしこれはすべての犬に当てはまるわけではなく、成犬になっても体質的に涙やけが続く子も少なくありません。
体質的な涙やけの場合、完全に治すことは難しいかもしれませんが、適切なケアによって症状を軽減し、二次的な皮膚トラブルを防ぐことは十分に可能です。
病気が原因の犬の涙やけ(鼻涙管閉塞・結膜炎など)
涙やけの背景に、治療が必要な病気が隠れていることもあります。特に注意すべきなのが、以下のような眼科疾患や鼻の問題です。
鼻涙管閉塞は、涙の通り道である鼻涙管が完全に、あるいは部分的に詰まってしまう状態です。先天的に管が狭い場合もあれば、炎症や感染、腫瘍などによって後天的に詰まることもあります。鼻涙管が詰まると涙の逃げ場がなくなり、常に目から涙が溢れ続けることになります。
結膜炎や角膜炎といった目の炎症性疾患も、涙やけの原因となります。炎症が起きると目を守ろうとして涙の分泌量が増えるため、通常よりも多くの涙が溢れ出してしまいます。結膜炎では目の充血や目ヤニが伴うことが多く、角膜炎では目を痛がって開けられない、しょぼしょぼするといった症状が見られます。
逆さまつげ、医学用語で睫毛乱生と呼ばれる状態では、まつげが正常な方向とは逆に生えて目の表面を刺激します。常にまつげが目に触れている状態なので、刺激によって涙が増え、結膜炎を併発することもあります。トイプードルやシーズーなどでよく見られる問題です。
眼瞼内反や眼瞼外反も涙やけの原因となる構造的な問題です。眼瞼内反はまぶたが内側に巻き込まれている状態で、まぶたの皮膚や毛が目の表面をこすり続けます。反対に眼瞼外反はまぶたが外側にめくれている状態で、目の表面が常に露出して乾燥しやすくなり、それを補おうと涙の分泌が増えます。
これらの病気による涙やけは、自宅ケアだけでは改善しません。むしろ放置すると視力の低下や慢性的な炎症につながる危険性があるため、早期の診断と適切な治療が必要です。
犬の涙やけとアレルギーの関係(食物・環境)
近年増加傾向にあるのが、アレルギーによる涙やけです。人間の花粉症で目が痒くなり涙が出るのと同じように、犬もアレルギー反応によって涙の分泌が増えることがあります。
食物アレルギーは、特定の食材に対して体の免疫システムが過剰反応を起こす状態です。犬の食物アレルギーでは、皮膚の痒みや下痢といった症状とともに、目の周りの赤みや涙やけが現れることがあります。アレルゲンとなりやすい食材には、牛肉、鶏肉、小麦、大豆、乳製品などがありますが、個体差が大きく、どの食材に反応するかは犬によって異なります。
食物アレルギーによる涙やけの特徴は、フードを変更することで改善する可能性があることです。ただし自己判断でフードを頻繁に変えると、かえってアレルゲンの特定が難しくなったり、消化器症状を引き起こしたりすることもあるため注意が必要です。
環境アレルギーも涙やけの原因となります。花粉、ハウスダスト、ダニ、カビといった環境中のアレルゲンに反応して、目の痒みや涙が増えることがあります。季節性のアレルギーの場合は、特定の時期だけ涙やけがひどくなるという特徴があります。春先に症状が悪化するなら花粉、一年中続くならハウスダストやダニが疑われます。
アレルギー性の涙やけでは、目の周りを痒がって前足で掻く、顔を床にこすりつけるといった行動が見られることもあります。また耳の中が赤くなったり、足先を舐め続けたりするなど、他の部位にもアレルギー症状が現れていることが多いです。
アレルギーが疑われる場合は、動物病院でのアレルギー検査や除去食試験といった診断を受け、原因を特定することが改善への近道となります。
犬の涙やけはフードで改善する?食事が影響するケース
アレルギーとは別に、フードの成分そのものが涙やけに影響を与えているケースもあります。これは科学的なエビデンスが確立されているわけではありませんが、臨床現場では「フードを変えたら涙やけが改善した」という報告が多数あります。
特に指摘されることが多いのが、フードに含まれる添加物です。人工着色料、保存料、香料といった化学的な添加物が体質に合わず、涙の分泌量に影響を与えている可能性が示唆されています。ただしこれには個体差が大きく、すべての犬が添加物に反応するわけではありません。
タンパク源の質も重要です。低品質な原材料を使用したフードや、タンパク質の消化吸収率が低いフードでは、体内で十分に処理されなかったタンパク質が老廃物として体に負担をかけ、それが涙の成分に影響を与えるという考え方もあります。高品質で消化性の良いタンパク質を使用したフードに変更することで、涙やけが軽減したという報告は少なくありません。
また脂質の酸化も問題となることがあります。開封後時間が経ち酸化した脂質を含むフードは、体内で炎症を引き起こしやすくなり、それが目の周りの炎症や涙の分泌増加につながる可能性があります。
実際にフード変更で改善する例は多く見られますが、注意すべきは急激な切り替えは避けるべきという点です。フードを急に変えると消化器症状を起こすことがあるため、新しいフードは少量ずつ混ぜながら、一週間から十日ほどかけて徐々に切り替えていく必要があります。
フードと涙やけの関係は複雑で、「このフードなら確実に治る」という万能な製品は存在しません。愛犬の体質に合ったフードを見つけるには、原材料の質、添加物の有無、アレルゲンの含有などを確認しながら、場合によっては獣医師と相談しながら試行錯誤していくことになります。
生活環境・ケア不足
意外と見落とされがちですが、日常的な生活環境やケアの方法が涙やけを悪化させていることもあります。
目の周りが常に湿っている状態を放置すると、雑菌や酵母菌の温床となります。涙で濡れた被毛を拭かずにいると、細菌が繁殖して皮膚炎を起こし、さらに変色がひどくなるという悪循環に陥ります。特に梅雨時期や夏場の湿度が高い季節は、菌が繁殖しやすいため注意が必要です。
また拭き方が不適切だと、かえって状況を悪化させることがあります。ティッシュペーパーでゴシゴシと強く拭くと、目の周りの薄い皮膚を傷つけてしまいます。傷ついた皮膚はさらに炎症を起こしやすくなり、涙の分泌も増えてしまいます。
目の周りの毛が長すぎると、その毛が目に入って刺激となり、涙が増える原因になります。特にトイプードルやマルチーズなどの長毛種では、目の周りの毛を定期的にカットして短く保つことが重要です。逆に短くカットしすぎると、今度は短い毛先が目を刺激することもあるため、適度な長さを保つバランス感覚が求められます。
シャンプーの際に目に入った洗浄成分が刺激となったり、ドライヤーの風が直接目に当たったりすることも、涙の分泌を増やす要因となります。シャンプーは目の周りを丁寧に洗い流し、ドライヤーは目に直接風が当たらないように配慮する必要があります。
生活環境やケアの問題は、飼い主の意識と習慣を変えることで改善できるものです。正しいケア方法を身につけることで、涙やけの症状を大きく軽減できる可能性があります。
放置していい涙やけ/危険な涙やけの見分け方

すべての涙やけが緊急性を伴うわけではありません。しかし中には病気のサインとして現れているケースもあるため、見極めが重要です。
様子見でよいケース
以下のような状態であれば、急いで病院を受診する必要はなく、自宅でのケアを続けながら様子を見ても問題ないでしょう。
まず愛犬の全身状態が良好であることが前提です。食欲があり、元気に遊び、排泄も正常であれば、涙やけ自体が命に関わる問題である可能性は低いといえます。体質的なものや軽度の鼻涙管の狭窄など、急を要さない原因である可能性が高いでしょう。
目ヤニの量や色が通常と変わらないことも重要なポイントです。透明またはやや白っぽい目ヤニが少量出る程度なら、生理的な範囲内と考えられます。目ヤニの量が急に増えたり、色が変わったりしていなければ、慌てる必要はありません。
涙やけが両目に対称的に出ている場合も、比較的心配は少ないです。体質的な問題や鼻涙管の狭窄といった構造的な原因であれば、通常は両側に症状が現れます。ただし絶対的な基準ではないため、他の症状と合わせて総合的に判断する必要があります。
長期間症状が安定していることも、様子見でよい判断材料となります。数ヶ月から数年にわたって涙やけの程度がほぼ一定で、急な変化がない場合は、その犬の体質として受け入れ、適切なケアを継続することが現実的な対応となります。
ただし「様子見でよい」とは「放置してよい」という意味ではありません。日々の観察とこまめなケアは続ける必要がありますし、定期的な健康診断の際には獣医師に涙やけについても相談しておくことをおすすめします。
すぐ病院を受診すべきサイン
一方で以下のような症状が見られる場合は、病気が隠れている可能性が高いため、速やかに動物病院を受診すべきです。
片側だけ涙やけがひどい、または急に悪化したという場合は要注意です。これは一方の目だけに炎症や異物、腫瘍などの問題が起きている可能性を示唆しています。左右差がある症状は、体質的なものではなく何らかの病変を疑うべきサインです。
目ヤニの色が黄色や緑色に変わった場合は、細菌感染を起こしている可能性が高いです。通常の目ヤニは透明から白っぽい色ですが、感染によって化膿すると黄色や緑色の粘り気のある目ヤニが出ます。この状態を放置すると炎症が悪化し、角膜潰瘍などの深刻な病気に進行することもあります。
目を痛がるような仕草が見られる場合も緊急性があります。目をしょぼしょぼさせる、前足で目をこする、目を開けられない、光を嫌がるといった行動は、角膜に傷がついているか、眼内に炎症が起きているサインです。これらの症状は視力低下につながる可能性があるため、当日中の受診が望ましいです。
目の充血が強い場合も注意が必要です。白目の部分が真っ赤になっている、まぶたの裏側が赤く腫れているといった場合は、結膜炎や緑内障などの病気が考えられます。特に緑内障は眼圧が急激に上昇して激しい痛みを伴い、放置すると失明に至る緊急疾患です。
涙やけが急に悪化した場合も、何らかの変化が起きている可能性があります。これまで軽度だった涙やけが短期間でひどくなった、あるいは今まで涙やけがなかったのに突然出現したという場合は、新たに炎症や閉塞が起きたことを示唆しています。
目の周りの腫れや、目が飛び出してきたように見える場合も、眼窩内の腫瘍や炎症、緑内障などの可能性があり、早急な診察が必要です。
これらの危険なサインが一つでも当てはまる場合は、自己判断でのケアを続けるのではなく、専門家である獣医師の診察を受けることが愛犬の目を守るために不可欠です。
犬の涙やけ|セルフチェックリスト
以下に当てはまる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
□ 片目だけ涙やけがひどい
□ 急に涙やけが悪化した
□ 黄色〜緑色の目ヤニが出る
□ 目をしょぼしょぼする・痛がる
□ 目の充血が強い
□ 市販ケアを続けても改善しない1つでも当てはまる場合、病気が隠れている可能性があります。
犬の涙やけに対する自宅ケア方法

軽度の涙やけや体質的な涙やけに対しては、自宅での適切なケアが症状の軽減に大きく役立ちます。ただし間違った方法では逆効果になることもあるため、正しいケア方法を知っておくことが重要です。
正しい拭き方
涙やけのケアで最も基本的かつ重要なのが、目の周りを適切に拭くことです。しかし拭き方一つとっても、正しい方法と間違った方法があります。
まず使用する素材についてですが、清潔なガーゼやコットンが最適です。ティッシュペーパーは繊維が粗く、目の周りの薄い皮膚を傷つけやすいため避けるべきです。また一度使ったガーゼを再利用するのも、細菌を広げることになるのでNGです。毎回新しい清潔なものを使用しましょう。
拭く際の最大のNG行動は、ゴシゴシと強くこすることです。変色した部分を無理に落とそうと力を入れて拭くと、皮膚が傷つき炎症を起こします。炎症が起きるとさらに涙の分泌が増え、涙やけが悪化するという悪循環に陥ります。
正しい拭き方は、ぬるま湯で湿らせたガーゼを目の周りに軽く当て、優しく押さえるようにして水分を吸い取るというものです。こすらず、押さえるという意識が大切です。変色した部分を一度に取ろうとせず、毎日のケアを続けることで徐々に薄くなっていくのを待つ姿勢が必要です。
拭く方向にも注意が必要です。目頭から目尻に向かって、涙の流れに沿って優しく拭きます。目の周りの毛を引っ張らないよう、丁寧に行いましょう。
頻度については、理想的には一日二回から三回程度が適切です。朝と夜、そして日中に一度というペースで、目の周りが湿っている時に拭いてあげると良いでしょう。ただし拭きすぎも皮膚への刺激になるため、四回五回と過度に行う必要はありません。
拭いた後は自然乾燥でも構いませんが、特に湿気の多い季節は、ドライヤーの冷風を遠くから当てて軽く乾かしてあげるのも効果的です。ただし熱風や強風は目への刺激となるため避けましょう。
これらの基本を守ることで、涙やけの悪化を防ぎ、徐々に状態を改善させることができます。
市販ケア用品の注意点
ペットショップやネット通販では、さまざまな涙やけ専用のケア用品が販売されています。涙やけクリーナー、拭き取りシート、専用ローションなど種類は豊富ですが、選び方と使い方には注意が必要です。
まず成分表示を必ず確認することが大切です。アルコールが含まれている製品は、目の周りの薄い皮膚には刺激が強すぎることがあります。特に皮膚が敏感な犬や、すでに皮膚炎を起こしている場合は避けるべきでしょう。
香料や着色料といった不必要な添加物が入っている製品も要注意です。これらは犬にとって何のメリットもなく、かえってアレルギー反応を引き起こす可能性があります。できるだけシンプルな成分構成のものを選びましょう。
ホウ酸を含む製品もありますが、ホウ酸は濃度によっては粘膜への刺激が強く、誤って目に入ると問題を起こすことがあります。使用する際は十分な注意が必要です。
市販のケア用品で注意すべきなのは、これらはあくまで「症状を軽減する」ためのものであり、「根本原因を治療する」ものではないという点です。病気が原因で涙やけが起きている場合、どんなに高価なケア用品を使っても根本的な改善は望めません。
また「涙やけが消える」「完全に治る」といった過度な宣伝文句には注意が必要です。涙やけは原因が複雑で、ケア用品だけで劇的に改善することは稀です。むしろ現実的な期待値を持ち、日々の地道なケアの補助として製品を活用する姿勢が大切です。
製品を使用して赤みや腫れ、痒みといった症状が出た場合は、すぐに使用を中止し、必要に応じて獣医師に相談しましょう。愛犬の体質に合わないケア用品を使い続けることは、症状を悪化させるだけです。
最も重要なのは、市販のケア用品に頼りすぎず、基本的な清潔ケアと定期的な観察を怠らないことです。製品はあくまで補助的なツールと考えましょう。
フード見直しのポイント
フードの見直しは涙やけ改善に効果的な場合がありますが、正しいアプローチが必要です。間違った方法では消化器症状を引き起こしたり、栄養バランスを崩したりする危険があります。
最も重要なのは、急な切り替えは絶対に避けることです。今日まで食べていたフードを明日から全く違うものに変えると、下痢や嘔吐といった消化器症状を起こす可能性が高くなります。フードの切り替えは必ず徐々に行い、通常は一週間から十日ほどかけて、新しいフードの割合を少しずつ増やしていきます。
初日は現在のフード九割に新しいフード一割を混ぜ、三日目には八対二、五日目には六対四というように、段階的に比率を変えていくのが基本です。この間に下痢や食欲不振などの異常が見られたら、一旦ペースを落とすか、そのフードが体質に合わない可能性を考えます。
フード選びでは、添加物の少ない高品質なフードを選ぶことがポイントです。原材料表示の最初に具体的な肉や魚の名前が書かれているもの、人工着色料や保存料が使用されていないものが望ましいでしょう。ただし「グレインフリー」「無添加」といった言葉に惑わされず、総合的な栄養バランスが取れているかを確認することも大切です。
アレルギーが疑われる場合は、療法食の使用を検討することもあります。ただし療法食は獣医師の指導のもとで使用すべきもので、自己判断で長期間与え続けることは推奨されません。アレルギー検査を受けて原因を特定し、それに基づいた除去食や低アレルゲン食を選ぶことが理想的です。
またフードだけでなく、おやつにも注意が必要です。主食のフードを変えても、高カロリーで添加物の多いおやつを大量に与えていては意味がありません。おやつもできるだけシンプルな原材料のものを選び、与えすぎないようにしましょう。
フード変更の効果を判定するには、少なくとも一ヶ月から二ヶ月は同じフードを続ける必要があります。一週間程度で効果がないと判断して次々にフードを変えると、どのフードが合っているのか分からなくなるだけでなく、消化器への負担も大きくなります。
涙やけの改善のためにフードを見直すことは有効ですが、焦らず慎重に、そして必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら進めることが成功の鍵となります。
動物病院で行う検査と治療

自宅でのケアで改善が見られない場合や、病気が疑われる症状がある場合は、動物病院での専門的な診察が必要です。どのような検査や治療が行われるのかを知っておくと、受診時の不安も軽減されるでしょう。
検査内容
涙やけで動物病院を訪れると、まず詳しい問診が行われます。いつから涙やけが始まったのか、片目か両目か、他に気になる症状はないかなど、症状の経過を詳しく聞かれます。事前にメモしておくと、診察がスムーズに進みます。
次に行われるのが眼科検査です。獣医師は特殊なライトを使って目の表面や内部を詳しく観察します。角膜に傷がないか、結膜に炎症はないか、眼瞼の構造に異常はないか、逆さまつげはないかなどをチェックします。またシルマー試験という涙の量を測定する検査を行うこともあります。これは目の下に試験紙を挟んで、一定時間にどれだけ涙が出るかを測定するものです。
鼻涙管が詰まっていないかを確認するために、鼻涙管洗浄という処置が行われることもあります。これは目頭にある涙点から細い管を挿入し、生理食塩水を流して鼻涙管の通りを確認する方法です。正常であれば鼻から水が出てきますが、詰まっている場合は水が流れません。この処置は軽い麻酔や鎮静が必要なこともあります。
アレルギーが疑われる場合は、血液検査によるアレルギー検査が提案されることがあります。これは血液中の特定のアレルゲンに対する抗体を測定するもので、何に対してアレルギーがあるのかを調べることができます。ただしこの検査ですべてのアレルゲンが分かるわけではなく、結果の解釈には専門的な知識が必要です。
食物アレルギーが疑われる場合は、除去食試験が推奨されることもあります。これは特定の限られた食材だけを与えて症状の変化を見る方法で、数週間から数ヶ月かかることもありますが、食物アレルギーの診断には最も信頼性の高い方法とされています。
これらの検査を通じて、涙やけの根本原因を突き止め、適切な治療方針を立てることができます。
治療方法
検査の結果に基づいて、それぞれの原因に応じた治療が行われます。
細菌感染による結膜炎や角膜炎が見つかった場合は、抗生剤入りの点眼薬が処方されます。通常は一日数回、指定された期間点眼を続けることで炎症が改善します。点眼薬の使い方は獣医師や看護師から丁寧に説明を受け、正しい方法で投薬することが大切です。
鼻涙管が詰まっている場合は、定期的な鼻涙管洗浄が必要になることがあります。これは一度の処置で完治することもあれば、何度か繰り返す必要がある場合もあります。完全に閉塞している場合や、洗浄を繰り返しても改善しない場合は、外科的な処置が検討されることもあります。
逆さまつげや眼瞼内反・外反といった構造的な問題がある場合は、外科手術が必要になることがあります。逆さまつげは異常なまつげを抜く、あるいは毛根を電気焼灼で破壊する処置が行われます。眼瞼の形態異常に対しては、まぶたの形を整える手術が実施されることもあります。
アレルギーが原因の場合は、まずアレルゲンの除去が基本となります。食物アレルギーであれば療法食への変更、環境アレルギーであれば生活環境の改善が推奨されます。症状が強い場合は、抗ヒスタミン剤やステロイド剤といった薬物療法が併用されることもあります。
フード指導も重要な治療の一環です。獣医師は犬の状態に合わせて、適切なフードの選び方や与え方についてアドバイスします。療法食が必要な場合は、その使用方法や注意点について詳しく説明を受けることになります。
治療期間は原因や重症度によって大きく異なります。点眼薬での治療であれば数日から数週間で改善することもあれば、構造的な問題やアレルギーの場合は数ヶ月から年単位での管理が必要になることもあります。
重要なのは、処方された薬は指示通りに最後まで使い切ること、途中で改善したように見えても自己判断で治療を中断しないこと、そして定期的な再診を受けて経過を確認することです。獣医師と二人三脚で治療に取り組む姿勢が、涙やけ改善への近道となります。
涙やけを予防するためにできること

涙やけは一度改善しても、ケアを怠ると再発することがあります。また体質的に涙やけになりやすい犬では、日頃からの予防ケアが症状を最小限に抑えるために重要です。
定期的なケアは予防の基本です。涙やけがひどくなってから慌ててケアを始めるのではなく、毎日の習慣として目の周りを清潔に保つことが大切です。朝晩の散歩の後や食事の後など、タイミングを決めてルーティン化すると続けやすいでしょう。ガーゼで優しく拭くという数分の習慣が、大きな予防効果を生みます。
食生活の見直しも予防に効果的です。一度涙やけが改善したフードが見つかったら、それを継続することが重要です。また新しいおやつを与える際は少量から始め、体質に合うかを確認しながら与えるようにしましょう。人間の食べ物を与えることは、塩分や添加物の過剰摂取につながり、涙やけだけでなく健康全般に悪影響を及ぼす可能性があるため避けるべきです。
目の周りの毛の管理も忘れてはいけません。トリミングの際には、目の周りの毛が目に入らない程度の長さに保ってもらうようトリマーに伝えましょう。自宅でカットする場合は、犬用の安全なハサミを使い、急な動きに備えて慎重に行う必要があります。
生活環境を清潔に保つことも予防につながります。ハウスダストやカビが涙やけの原因となることもあるため、犬が過ごす場所はこまめに掃除し、換気を良くして湿気がこもらないようにしましょう。寝床やタオル、食器なども定期的に洗い、清潔を保つことが大切です。
早期受診の重要性も強調しておきたいポイントです。涙やけが急に悪化した、片目だけ症状が強い、目ヤニの色が変わったといった変化に気づいたら、様子を見るのではなく早めに受診しましょう。早期に適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、治療期間も短くすることができます。
定期的な健康診断の際には、涙やけについても獣医師に相談することをおすすめします。気になる症状がなくても、専門家の目で定期的にチェックしてもらうことで、潜在的な問題を早期に発見できることもあります。
予防は治療よりも簡単で、愛犬への負担も少なくて済みます。毎日の小さなケアの積み重ねが、涙やけのない快適な生活につながります。
よくある質問(FAQ)

涙やけについて飼い主さんからよく寄せられる質問にお答えします。
涙やけは治りますか?
涙やけが完全に治るかどうかは、その原因によって異なります。病気が原因であれば、適切な治療によって改善または完治することが多いです。結膜炎や角膜炎は治療で治りますし、鼻涙管閉塞も処置によって改善することがあります。
一方で体質的なもの、特に短頭種や小型犬の先天的な鼻涙管の狭窄による涙やけは、完全に治すことは難しい場合があります。ただし適切なケアを続けることで、症状を軽減し、変色を最小限に抑えることは十分に可能です。「治す」というよりも「上手に付き合う」という姿勢が現実的かもしれません。
市販グッズだけで治せますか?
市販のケア用品は症状の軽減に役立つことがありますが、それだけで根本的に治すことは難しいでしょう。特に病気が原因の涙やけは、適切な診断と治療が必要です。
市販グッズは日常的な清潔ケアの補助として有効ですが、過度な期待は禁物です。何週間も市販品を使い続けても改善が見られない場合は、動物病院での診察を検討すべきです。早期に専門家の診断を受けることが、結果的に早い改善につながります。
成犬・シニア犬でも改善しますか?
はい、成犬やシニア犬でも涙やけの改善は十分に可能です。年齢に関係なく、原因に応じた適切な対処をすれば改善が期待できます。
ただしシニア犬の場合は、若い頃にはなかった疾患が涙やけの原因となっていることもあります。加齢に伴う免疫力の低下で感染症にかかりやすくなったり、腫瘍ができたりすることもあるため、特に念入りな観察と早めの受診が重要です。
またシニア犬は治癒力が若い犬に比べて低いことがあり、治療に時間がかかることもあります。焦らず根気強くケアを続けることが大切です。
まとめ|犬の涙やけは「原因を見極めること」が最重要

犬の涙やけは、見た目だけの問題として軽視されがちですが、その背景には体質、病気、アレルギー、食事、生活環境といった様々な原因が隠れています。だからこそ「とりあえずこれを試してみる」という場当たり的な対応ではなく、まず原因を正しく見極めることが何よりも重要です。
体質的な涙やけであれば、日々の丁寧なケアで症状を最小限に抑えることができます。病気が原因であれば、適切な診断と治療によって改善が期待できます。アレルギーや食事が関係しているなら、原因物質の除去やフードの変更が効果的です。このように、原因によってアプローチ方法は全く異なるのです。
自己判断だけで対応を続けることにはリスクも伴います。病気のサインを見逃して症状が悪化したり、不適切なケアで皮膚トラブルを引き起こしたりする可能性があります。「様子を見ていれば治るだろう」と放置した結果、取り返しのつかない状態になることもゼロではありません。
愛犬の涙やけが気になったら、まずは症状をよく観察し、記録をつけることから始めましょう。いつから始まったのか、片目か両目か、他に気になる症状はないか、といった情報は診察時に非常に役立ちます。そして自宅でのケアを試みつつも、改善が見られない場合や不安な症状がある場合は、躊躇せず動物病院に相談することをおすすめします。
獣医師は涙やけの専門家として、あなたの愛犬に最適な診断と治療方針を提案してくれます。一人で悩まず、専門家の力を借りることが、愛犬の快適な生活を守る最善の方法です。
涙やけは適切な対応によって改善できる症状です。原因を見極め、それに応じた正しいケアを続けることで、あなたの愛犬の目元は明るく健康的な状態を取り戻すことができるでしょう。










