犬の咳が止まらない原因は?症状別の対応と病院受診の目安

愛犬が突然咳き込み始めると、飼い主さんは不安になるものです。人間のように風邪で一時的に咳が出ているだけなのか、それとも何か深刻な病気のサインなのか、判断に迷うこともあるでしょう。犬の咳は、軽い刺激によるものから命に関わる病気まで、さまざまな原因で起こります。この記事では、犬の咳が止まらない場合に考えられる原因や、症状の見分け方、自宅でできる対応、そして動物病院を受診すべきタイミングについて詳しく解説します。

犬の咳が止まらない…まず飼い主さんが知っておきたいこと

咳は「軽い症状」とは限らない

犬の咳を「たかが咳」と軽く考えてしまう飼い主さんは少なくありません。確かに、一時的な刺激や興奮によって咳が出ることもありますが、犬の咳は呼吸器系や循環器系の異常を示す重要なサインである場合が多いのです。

人間の場合、咳は風邪の症状として日常的に経験するため、つい「様子を見よう」と考えがちです。しかし、犬は人間よりも呼吸器が敏感であり、また自分の不調を言葉で伝えることができません。咳という症状は、体が何らかの異常に対して反応している証拠であり、特に数日以上続く場合や、他の症状を伴う場合は注意が必要です。

様子見でよいケース/危険なケースの違い

すべての咳がすぐに病院に行くべき緊急事態というわけではありません。一時的な咳と、受診が必要な咳を見分けるポイントを理解しておくことが大切です。

様子見でよいケースとしては、散歩中に草むらで何かを嗅いだ後に一度だけ咳き込んだ場合や、水を勢いよく飲んだ直後にむせた場合など、明確なきっかけがあり、その後すぐに治まる咳が挙げられます。また、興奮して吠えた後に一時的に咳が出ても、すぐに落ち着いて元気にしているなら、緊急性は低いでしょう。

一方で、危険なケースとしては、咳が数日以上続いている場合、咳の頻度や強さが増している場合、夜間に特に咳がひどくなる場合、呼吸が苦しそうで舌や歯茎の色が紫がかっている場合などが挙げられます。さらに、咳と同時に元気や食欲がなくなっている、咳をしながら倒れそうになる、咳とともに泡状のものを吐くといった症状が見られる場合は、すぐに動物病院を受診すべきです。

特に高齢犬や、過去に心臓病や呼吸器疾患の診断を受けたことがある犬の場合は、咳が病気の悪化を示している可能性が高いため、早めの受診が推奨されます。

犬の咳が止まらない主な原因

犬の咳にはさまざまな原因があり、咳の音や出方、犬の年齢や体格によって、ある程度原因を推測することができます。ここでは、犬の咳が止まらない場合に考えられる主な原因について詳しく見ていきましょう。

感染症による咳(ケンネルコフなど)

感染症による咳の代表例が「ケンネルコフ」です。ケンネルコフは犬伝染性気管気管支炎とも呼ばれ、複数のウイルスや細菌が関与する感染症です。犬パラインフルエンザウイルスやアデノウイルス、気管支敗血症菌(ボルデテラ)などが主な原因となります。

ケンネルコフの特徴的な症状は、乾いた咳です。「ガーガー」「カッカッ」といった音を立てて咳き込み、まるで何かが喉に引っかかっているかのような仕草を見せることもあります。咳の最後に少量の白い泡を吐き出すこともあります。軽症の場合は元気や食欲は保たれていることが多いですが、悪化すると発熱や鼻水、食欲不振などの症状も現れます。

ケンネルコフは伝染性が高く、特にペットショップ、動物病院の待合室、ドッグランやトリミングサロンなど、多くの犬が集まる場所で感染しやすい傾向があります。子犬や免疫力の低下した犬はより感染しやすく、重症化のリスクも高まります。多頭飼育している家庭では、一頭が感染すると他の犬にも次々と広がることがあるため注意が必要です。

予防としては、混合ワクチンに含まれる成分である程度予防が可能です。また、ケンネルコフ専用のワクチン(鼻腔内投与型)もあり、特にドッグランを頻繁に利用する場合や、ペットホテルに預ける予定がある場合は、獣医師に相談してみるとよいでしょう。

心臓病が原因の咳(僧帽弁閉鎖不全症など)

高齢犬の咳で最も注意すべきなのが、心臓病による咳です。特に小型犬に多いのが「僧帽弁閉鎖不全症」という心臓病で、心臓の弁がきちんと閉じなくなることで血液が逆流し、心臓に負担がかかる病気です。

心臓病による咳の特徴は、夜間や明け方、つまり横になっているときに悪化することです。これは、横になることで肺に血液がうっ滞しやすくなり、気道が圧迫されるためです。咳は湿った感じで、「ゴホゴホ」「ガハッ」といった音を伴うことが多く、ひどい場合は咳とともにピンク色の泡状の液体を吐くこともあります。これは肺水腫の徴候であり、緊急性の高い状態です。

心臓病による咳は、病気の進行とともに徐々に悪化していきます。初期段階では散歩の後や興奮したときだけ咳が出る程度ですが、進行すると安静時にも咳が出るようになり、呼吸困難や失神を起こすこともあります。運動を嫌がる、すぐに疲れる、舌の色が紫がかってくるといった症状も見られる場合があります。

心臓病は完治することが難しい病気ですが、早期発見と適切な治療により、犬の生活の質を保ちながら長く生きることが可能です。定期的な健康診断で心雑音が指摘された場合や、高齢になってから咳が増えてきた場合は、早めに精密検査を受けることが大切です。

気管虚脱による咳

気管虚脱は、気管が正常な筒状の形を保てなくなり、潰れてしまう病気です。特にチワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、トイプードルなどの小型犬に多く見られます。

気管虚脱による咳の最大の特徴は、「ガーガー」「ゲーゲー」といった、まるでガチョウが鳴いているような独特の音です。この音は気管が狭くなることで空気が通りにくくなり、振動が生じるために発生します。興奮したとき、首輪を引っ張られたとき、水を飲むとき、暑い環境にいるときなどに症状が悪化しやすい傾向があります。

軽度の場合は時々咳が出る程度ですが、重症化すると呼吸困難に陥り、チアノーゼ(舌や歯茎が紫色になる)を起こすこともあります。興奮や運動後に呼吸が落ち着かず、苦しそうにし続ける場合は注意が必要です。

気管虚脱は遺伝的な要因に加えて、肥満や慢性的な気道炎症が悪化の要因となります。予防や進行を遅らせるためには、適正体重の維持、首輪ではなくハーネスの使用、興奮を避けることなどが重要です。軽度であれば内科的治療で管理できますが、重症の場合は外科手術が必要になることもあります。

アレルギー・環境要因による咳

犬もアレルギーによって咳が出ることがあります。人間の花粉症のように、特定の季節に症状が現れる季節性アレルギーや、ハウスダスト、ダニ、カビなどの環境アレルゲンに反応する通年性アレルギーがあります。

アレルギー性の咳は、比較的軽い乾いた咳であることが多く、くしゃみや鼻水、目の充血、皮膚のかゆみなど、他のアレルギー症状を伴うことが特徴です。特定の場所に行ったときや、掃除をしたときなど、環境の変化に伴って症状が現れる場合は、アレルギーの可能性が高いでしょう。

また、タバコの煙、香水やアロマオイル、芳香剤、スプレー類などの刺激物によって咳が引き起こされることもあります。犬の嗅覚は人間よりもはるかに優れているため、人間が気にならない程度のにおいでも、犬にとっては強い刺激となることがあります。

環境要因による咳は、原因となる物質を特定して避けることで改善することが多いです。部屋の換気をこまめに行う、空気清浄機を使用する、カーペットやカーテンを定期的に洗濯する、掃除の頻度を増やすなどの対策が有効です。症状が強い場合は、抗ヒスタミン薬やステロイドなどの投薬治療が行われることもあります。

誤飲・異物による咳

犬が何かを飲み込んでしまい、それが気道に引っかかることで咳が出ることがあります。小さなおもちゃの破片、骨、糸くず、草の種など、さまざまなものが異物となりえます。

誤飲や異物による咳の特徴は、突然激しい咳が始まることです。それまで何の症状もなかったのに、急に咳き込み始め、苦しそうにしている場合は、異物を疑うべきです。咳とともに吐こうとする仕草を繰り返したり、前足で口元を掻こうとしたり、よだれを大量に垂らしたりする様子が見られることもあります。

異物が気道に詰まると呼吸困難に陥り、命に関わる緊急事態となることがありますので、犬が突然激しく咳き込み、呼吸が止まりそうになっている場合は一刻も早く動物病院に連れて行く必要があります。

異物が食道に詰まっている場合は、咳よりも嘔吐や吐き気、食欲不振などの消化器症状が主体となります。いずれにしても、誤飲が疑われる場合は速やかに動物病院を受診することが大切です。

風邪・呼吸器系に関する症状のまとめはこちら

咳の「出方」から考えられる病気

咳の音や出るタイミング、持続時間などから、ある程度原因を推測することができます。正確な診断には検査が必要ですが、咳の特徴を観察することは、獣医師への情報提供としても非常に有用です。

乾いた咳と湿った咳の違い

咳は大きく「乾いた咳」と「湿った咳」に分けられます。この違いを理解することで、どのような病気の可能性があるかをある程度予測できます。

乾いた咳は、「カッカッ」「ゲホゲホ」といった、痰が絡まないような軽い咳です。気道の刺激や炎症が主な原因で、感染症の初期段階、気管虚脱、アレルギー、異物などで見られます。咳の最後に少し白い泡を吐くことはありますが、基本的には空咳のような印象です。

一方、湿った咳は「ゴホゴホ」「ガハッ」といった、痰が絡んだような重い咳です。気道に分泌物が増えている状態や、肺に水分が溜まっている状態で見られます。心臓病による肺水腫、重度の気管支炎、肺炎などが原因となることが多く、乾いた咳よりも深刻な状態を示唆することがあります。咳とともにピンク色や白色の泡状の液体を吐く場合は、肺水腫の可能性が高く、緊急性があります。

ただし、病気の進行に伴って咳の性質が変わることもあります。たとえば、ケンネルコフは初期には乾いた咳ですが、二次感染を起こして肺炎に進行すると湿った咳に変わることがあります。咳の性質だけでなく、他の症状や犬の状態を総合的に観察することが重要です。

運動後・夜間・安静時に出る咳

咳が出るタイミングも、原因を探る重要な手がかりとなります。

運動後や興奮したときに咳が出る場合は、気管虚脱や軽度の心臓病の可能性があります。運動によって呼吸が速くなり、気道への負担が増すことで咳が誘発されます。また、首輪を引っ張られたときに咳が出る場合も、気管虚脱を疑うべきサインです。

夜間や明け方、横になっているときに咳がひどくなる場合は、心臓病の可能性が高いです。特に寝床から移動して座り込むような姿勢を取る場合は、横になると呼吸が苦しいことを示しており、心不全の進行を疑う必要があります。飼い主さんが夜間の咳で何度も起こされるようになったら、早急に受診を検討すべきです。

安静時、特に何もしていないのに突然咳き込む場合は、感染症や気道の炎症、異物などさまざまな原因が考えられます。朝起きたときや食後など、特定のタイミングで咳が出る場合は、そのパターンを記録しておくと診察時に役立ちます。

また、季節や天候によって咳の頻度が変わる場合は、アレルギーや気温の影響を受けている可能性があります。梅雨時期や冬の乾燥した時期に悪化する場合は、環境要因も考慮する必要があります。

咳以外に見られる注意症状(元気・食欲・呼吸)

咳だけでなく、他の症状を総合的に観察することで、状態の深刻さや緊急性を判断することができます。

元気や食欲の変化は、病気の重症度を示す重要な指標です。咳が出ていても元気に走り回り、いつも通りに食事をしているなら、緊急性は比較的低いと考えられます。一方、咳とともにぐったりしている、食事を残す、好きなおやつにも興味を示さないといった変化が見られる場合は、全身状態が悪化している可能性があり、早急な受診が必要です。

呼吸の様子も重要な観察ポイントです。通常、犬の安静時呼吸数は1分間に15から30回程度ですが、これが40回を超える場合は呼吸が速すぎる状態です。呼吸が浅く速い、腹部を大きく動かして呼吸している、鼻を広げて呼吸している、口を開けたまま呼吸しているといった様子は、呼吸困難のサインです。

また、舌や歯茎の色も確認しましょう。健康な犬の舌や歯茎はピンク色ですが、酸素が不足すると紫がかった色(チアノーゼ)になります。これは緊急事態であり、すぐに動物病院に連絡する必要があります。

その他、発熱、鼻水、くしゃみ、嘔吐、下痢などの症状が咳と同時に見られる場合は、全身性の感染症や複数の臓器が関与する病気の可能性があります。これらの症状をメモしておき、診察時に獣医師に伝えることで、より正確な診断につながります。

犬が咳をしているときに自宅でできる対応

動物病院を受診する前、あるいは軽度の咳で経過観察をしている場合に、自宅でできる対応がいくつかあります。これらは症状を和らげ、犬を快適に過ごさせるための方法です。

首輪からハーネスへの変更

首輪は散歩の際に気管を圧迫し、咳を悪化させる原因となります。特に気管虚脱や気管支炎がある犬にとって、首輪による圧迫は症状を著しく悪化させます。

ハーネスは胸部全体で引っ張る力を分散させるため、気管への負担が大幅に軽減されます。咳が出ている犬には、すぐにハーネスに切り替えることをお勧めします。ハーネスにもさまざまなタイプがありますが、胸部を締め付けないデザインのものを選ぶとよいでしょう。

また、散歩中に犬が急に引っ張ることがないよう、リードの扱いにも注意が必要です。犬が何かに興味を示して突進しそうになったら、リードを強く引くのではなく、立ち止まって犬を落ち着かせるなど、気道に負担をかけない方法を心がけましょう。

室内環境(乾燥・ホコリ)の見直し

空気の乾燥は気道粘膜を刺激し、咳を悪化させます。特に冬場の暖房使用時や、エアコンを長時間使用する夏場は、室内が乾燥しやすいため注意が必要です。

加湿器を使用して室内の湿度を50から60パーセント程度に保つことで、気道の粘膜を保護し、咳を和らげることができます。ただし、湿度が高すぎるとカビやダニが繁殖しやすくなるため、適度な湿度を保つことが大切です。

また、ホコリやハウスダストも咳の原因となります。こまめな掃除、空気清浄機の使用、カーペットや布製品の定期的な洗濯などで、室内の空気環境を整えましょう。犬のベッドやブランケットも定期的に洗濯し、清潔に保つことが重要です。

タバコの煙、香水、芳香剤、スプレー類など、刺激性のある物質は犬の気道を刺激します。咳が出ている間は、これらの使用を控えるか、犬がいる部屋では使用しないようにしましょう。

室温も重要な要素です。暑すぎると呼吸が荒くなり咳が悪化しやすく、寒すぎると気道が刺激されます。犬が快適に過ごせる温度を保つよう心がけましょう。

診察時に役立つ「咳の動画撮影」

犬の咳は診察室では出ないことが多く、飼い主さんが「いつも家でこんな咳をしているんです」と説明しても、獣医師が実際の咳を確認できないことがあります。そこで非常に役立つのが、咳をしているときの動画撮影です。

動画を撮影する際は、咳の音がはっきり録音できるよう、犬の近くで撮影しましょう。可能であれば、咳の前後の犬の様子も含めて撮影すると、より多くの情報が得られます。たとえば、咳の後に何かを吐こうとしている、咳の前に特定の行動をしているなど、パターンが分かることもあります。

また、咳が出る時間帯、頻度、持続時間、咳のきっかけ(運動後、興奮時、夜間など)を記録しておくことも重要です。簡単なメモや日記をつけておくと、診察時に正確な情報を伝えることができます。

注意点として、人間用の咳止め薬を犬に与えることは絶対に避けてください。人間用の薬には犬にとって有害な成分が含まれていることがあり、中毒を起こす危険性があります。また、咳は体が異常を知らせるサインであり、むやみに咳を止めてしまうと、本来の原因を見逃すことにもなります。治療は必ず獣医師の指示に従って行いましょう。

すぐに動物病院を受診すべき咳の症状

咳の中には、緊急性が高く、すぐに動物病院を受診すべきものがあります。以下のような症状が見られる場合は、様子を見ずに速やかに受診することが大切です。

咳が数日以上続いている場合は、一時的な刺激ではなく、何らかの病気が背景にある可能性が高いです。特に日を追うごとに咳の回数が増えている、咳がひどくなっているという場合は、早めの受診が推奨されます。

呼吸が苦しそうな様子は緊急性が高いサインです。口を開けて苦しそうに呼吸している、呼吸数が明らかに多い、座り込んで首を伸ばすような姿勢を取る、横になれずに座ったままでいる、舌や歯茎が紫色になっているといった症状が見られる場合は、すぐに動物病院に連絡してください。

元気や食欲の低下も重要なサインです。咳とともにぐったりしている、食事を残すようになった、好きな散歩に行きたがらない、動きが鈍くなったといった変化は、全身状態の悪化を示しています。

夜間の咳が悪化している場合、特に横になると咳がひどくなる場合は、心臓病の可能性があります。夜中に何度も咳で起きる、座った姿勢で寝ているといった様子が見られたら、心不全の徴候かもしれません。

高齢犬や、過去に心臓病、呼吸器疾患、気管虚脱などの持病がある犬の場合は、咳が病気の悪化を示している可能性が高いため、早めの受診が安心です。また、子犬の場合は抵抗力が弱く、感染症が急速に悪化することがあるため、咳が続く場合は早めに受診しましょう。

その他、咳とともにピンク色や白色の泡を吐く、失神する、倒れる、嘔吐や下痢を伴うといった症状が見られる場合も、緊急性が高いため、迷わず動物病院に連絡してください。

動物病院で行う検査と治療について

動物病院では、咳の原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。検査内容は犬の年齢、症状、身体検査の結果などに基づいて決定されます。

咳の原因を調べる主な検査

最初に行われるのが聴診です。獣医師は聴診器を使って、心臓の音や肺の音を詳しく聞きます。心雑音の有無、肺の雑音、気道の異常音などから、ある程度の原因を推測することができます。聴診は痛みを伴わず短時間で行える基本的な検査ですが、非常に多くの情報が得られます。

レントゲン検査は、胸部の状態を視覚的に確認するための検査です。心臓の大きさや形、肺の状態、気管の形態、胸水の有無などを評価できます。心臓病による心臓の拡大、気管虚脱による気管の狭窄、肺炎による肺の陰影、腫瘍の有無などを確認することができます。レントゲン検査は通常、鎮静なしで行えますが、動きやすい犬の場合は軽い鎮静が必要になることもあります。

心臓超音波検査(心エコー)は、心臓病が疑われる場合に行われる精密検査です。心臓の構造、弁の動き、血流の状態などをリアルタイムで観察できます。僧帽弁閉鎖不全症の程度、心臓の収縮力、心房や心室の大きさなど、詳細な情報が得られます。心エコーは非侵襲的な検査で、多くの場合は無麻酔で実施できます。

血液検査は、全身状態の評価や感染症の有無、臓器機能の確認に役立ちます。白血球数の増加は感染症や炎症を示唆し、貧血の有無、肝臓や腎臓の機能、電解質のバランスなどを確認できます。また、心臓病の指標となるバイオマーカー(NT-proBNPなど)を測定することもあります。

その他、症状や疑われる病気に応じて、気管支鏡検査、CT検査、細菌培養検査などの特殊な検査が必要になることもあります。ただし、これらの検査には全身麻酔が必要な場合が多く、犬の状態や年齢を考慮して実施が判断されます。

原因別の治療方針

咳の治療は、原因によって大きく異なります。正確な診断に基づいた適切な治療を行うことが、症状の改善と犬の生活の質の向上につながります。

感染症による咳の場合は、抗生物質や抗ウイルス薬などの投薬治療が中心となります。ケンネルコフの多くは軽症であれば自然に回復することもありますが、二次感染を防ぎ、症状を和らげるために抗生物質や咳止め、消炎剤などが処方されることがあります。重症の場合は入院治療が必要になることもあります。治療期間は通常1から2週間程度ですが、完全に回復するまでは他の犬との接触を避けることが重要です。

心臓病による咳の場合は、強心薬、利尿薬、血管拡張薬などを組み合わせた内科治療が行われます。心臓病は完治することが難しいため、多くの場合は生涯にわたって投薬を続ける必要があります。定期的な検査で心臓の状態をモニタリングしながら、薬の量や種類を調整していきます。食事管理や運動制限も治療の一環として重要です。

気管虚脱の場合は、軽度であれば体重管理、環境改善、咳止めなどの内科治療で症状をコントロールできることがあります。しかし、重度の場合や内科治療で改善が見られない場合は、気管を支えるためのステントを留置する外科手術が検討されます。手術にはリスクも伴うため、獣医師とよく相談して判断することが大切です。

アレルギーや環境要因による咳の場合は、原因物質を特定して避けることが最も重要です。症状が強い場合は、抗ヒスタミン薬やステロイドなどの抗炎症薬が処方されることがあります。環境改善と併せて治療を行うことで、多くの場合は症状をコントロールできます。

誤飲や異物による咳の場合は、異物の位置や大きさによって対応が異なります。口の中や喉の浅い部分に異物がある場合は、鎮静や麻酔下で取り除くことができます。気管や食道の深い部分にある場合は、内視鏡や外科手術が必要になることもあります。

いずれの場合も、獣医師の指示に従って正確に投薬を行い、定期的な再診を受けることが重要です。症状が改善したからといって自己判断で薬を中止すると、病気が再発したり悪化したりすることがあります。

犬の咳に関するよくある質問

犬の咳について、飼い主さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

咳が出ているとき、散歩はしてもいい?

咳の程度や原因によって判断が異なります。軽い咳で元気があり、散歩を楽しみにしている様子なら、短時間のゆっくりとした散歩は問題ないでしょう。ただし、いつもより距離を短くし、走らせたり興奮させたりしないよう注意が必要です。

一方、咳がひどい場合、呼吸が苦しそうな場合、散歩中に咳が悪化する場合は、散歩を控えるべきです。特に心臓病や気管虚脱がある場合、運動は症状を悪化させる可能性があります。また、感染症による咳の場合は、他の犬への感染を防ぐためにも、ドッグランや犬が集まる場所への外出は避けましょう。

排泄のために外に出る必要がある場合は、抱っこで移動するか、ごく短時間だけ外に出るようにします。獣医師に散歩の可否について相談し、指示に従うことが最も安全です。

犬の咳は自然に治ることもある?

一時的な刺激や軽度の気道炎症による咳は、自然に治ることもあります。たとえば、何かを吸い込んで一時的に咳き込んだ場合や、軽度のケンネルコフなどは、数日から1週間程度で自然に回復することがあります。

しかし、心臓病や気管虚脱など、構造的な異常や慢性疾患による咳は、治療なしに改善することはありません。むしろ放置すると徐々に悪化していきます。

咳が数日以上続く場合、悪化している場合、他の症状を伴う場合は、自然治癒を期待せずに動物病院を受診することをお勧めします。早期発見、早期治療が、犬の苦痛を減らし、生活の質を保つためには重要です。

「様子を見よう」と思っているうちに病気が進行してしまうケースは少なくありません。迷ったら受診するという姿勢が、愛犬の健康を守ることにつながります。

ワクチンで予防できる咳はある?

はい、あります。犬のワクチンには、咳を引き起こす感染症を予防する成分が含まれています。

混合ワクチン(5種、6種、8種など)には、犬パラインフルエンザウイルスやアデノウイルスなど、ケンネルコフの原因となるウイルスに対する予防成分が含まれています。定期的なワクチン接種により、これらのウイルス感染による咳のリスクを大幅に減らすことができます。

また、ケンネルコフ予防専用のワクチンもあります。これは鼻腔内に投与するタイプで、気管支敗血症菌(ボルデテラ)やパラインフルエンザウイルスに対する予防効果があります。特にドッグランを頻繁に利用する、ペットホテルに預ける予定がある、多頭飼育している、免疫力が低下しているなどの場合は、このワクチンの接種を検討するとよいでしょう。

ただし、ワクチンはすべての咳を予防できるわけではありません。心臓病や気管虚脱、アレルギーなどによる咳は、ワクチンでは予防できません。ワクチンはあくまで予防できる感染症に対する手段であり、定期的な健康診断や適切な飼育環境の維持も併せて重要です。

まとめ|犬の咳が止まらないときは早めの判断を

犬の咳は、軽い刺激による一時的なものから、命に関わる重大な病気のサインまで、さまざまな原因で起こります。感染症、心臓病、気管虚脱、アレルギー、誤飲など、原因は多岐にわたり、それぞれに適した治療法が異なります。

咳の音や出るタイミング、犬の年齢や体格、他の症状の有無などを総合的に観察することで、ある程度原因を推測することができます。乾いた咳と湿った咳の違い、運動後や夜間に悪化するパターン、元気や食欲の変化などは、重要な判断材料となります。

自宅でできる対応としては、首輪をハーネスに変更する、室内環境を整える、咳の様子を動画で記録するなどがあります。ただし、人間用の咳止め薬を与えることは絶対に避けてください。

咳が数日以上続く場合、呼吸が苦しそうな場合、元気や食欲が低下している場合、夜間の咳が悪化する場合、高齢犬や持病がある場合は、様子を見ずに早めに動物病院を受診することが大切です。特に呼吸困難やチアノーゼが見られる場合は緊急事態であり、すぐに受診する必要があります。

動物病院では、聴診、レントゲン、心エコー、血液検査などを通じて咳の原因を特定し、それに応じた治療が行われます。感染症には抗生物質、心臓病には強心薬や利尿薬、気管虚脱には体重管理や場合によっては手術など、原因に合わせた適切な治療を受けることで、多くの場合は症状をコントロールできます。

「たかが咳」と軽く考えず、愛犬の様子をしっかり観察し、気になることがあれば早めに獣医師に相談することが、犬の健康と幸せな生活を守ることにつながります。迷ったときは、受診を選択する方が安全です。早期発見、早期治療により、愛犬がより長く快適に過ごせるよう、日頃から健康管理に気を配りましょう。

この記事を書いた人

オダガワ動物病院

犬・猫・小鳥・ウサギ・ハムスター・フェレット・モルモットの専門診療医院